Rewrite:2014年3月26日(水)
ときどき居酒屋などに行くと、レジの周辺に顧客の名刺が所せましと貼られている光景を目にする。私も何度か、名刺を貼ってきたが、ただの一度もDMが来たことがない。「最高の名簿」を持っていながらなぜそれを利用しないのだろうか。いつも満席で困っているのならそれも理解できるが、こうしたお店では、定期的に新聞折り込みなどで広告予算を使っているのだ。
私と同じことを考えているアメリカ人がいた。
「私たちのほとんどは、最高の商品を、最大の広告予算を使って、最良のマーケットに売り込み、最大のシェアを獲得するといったチャンスには、まず出会えない」
これは、ある本のキャッチコピーだ。その本とは『エスキモーに氷を売る』(きこ書房刊)である。
観客動員数最下位の全米プロバスケットチームを、最弱のままで高収益チームへと変貌させた男、ジョン・スポールストラ社長自らが書いた痛快な読み物で、商品に魅力があることと、良く売れることとは別問題であることを立証した本でもある。
「ニュージャージー・ネッツ」という弱いチームの社長に就任したジョンは、どうしたらチケットが売れるかを日夜考える。ホームで開催する試合は、いつも空席だらけ。ただでさえ弱い選手の集まりなのに、空席によって一層迫力のない試合をするという悪循環に陥っていた。
7人のオーナーからチーム経営を任されたジョンは、のんびりした改革もできない。ある程度のジャンプスタートを切らねばならない立場にもあったのだ。問題は山積していた。ビジネスにとって致命的とも言える欠陥を抱えているのだ。それは、商品の欠陥だ。ネッツという最弱なチームには誰一人観客を呼べるような人気選手がいない。魅力のない売り物をいかにして魅力的に売り込むかが勝負だ。
さらには、チケットセールスの部隊もネッツの選手に負けず劣らず弱い営業力だ。なにかを達成しようと言う気概などまるでない。私なら社長就任を頼まれても、きっとお断りしたに違いない。だが、ジョンは引き受けた。
ジョンのユニークなところは、ネッツというチームを強くする努力は一切していない。当時強かった日本の西武ライオンズの例を引き合いに出し、「強いチーム=チケットが完売する」という方程式は成り立たないことに目をつける。
営業部隊にも同様の要求をつきつける。「君たちの仕事は、ネッツを強くするアイデアを出すことではない。チケットを完売することだ!」と。
私たちは無駄な努力をしがちだ。それは、「完璧な商品を作れば自動的に売れる、売れないのは商品の魅力がまだ足りないからだ」と思いこみ、商品開発に時間を割いて、売るための時間を先送りする。だが、「商品が自分たちを救ってくれることはない」というのがジョン特有の割り切りだ。
次のような方々には何はさておき一読していただきたい。
1.売上げが減ったら、人も減らせば良いと単純に思う人
2.バカげた広告宣伝にお金を使ったことがない人
3.自社の最大の問題は商品力か技術力だと思っている人
4.一度去っていった顧客には、その後一度も営業にいかない人
5.すべての顧客に対してわけへだてなくサービスを提供するのが当然だと思っている人
せっかくの来店者名簿を使おうとしない冒頭の居酒屋さんにも、今度教えてあげよう。