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複数の報酬制度

Rewrite:2014年3月26日(水)

ある不動産販売会社での話。数年前に成果主義型の賃金制度を導入した。固定給のウエイトを減らし、成果連動給与を加算するものだ。固定給は入社後一年間は誰でも23万円。入社したての新入社員は最初の一年間は変動給がない。二年目からは固定給が毎年10%減っていく。しかし、変動給が加算されるので目標を達成すれば増収する仕組みだ。

一見すると理にかなっているが、この制度を導入してから人事異動が難しくなってしまった。
経営者からみれば優秀な人材ほど新設部門や難易度の高い戦略的な仕事に挑戦させたいものだ。ところが成果給制度の弊害でそれが困難になるのだ。この会社は、本社がある愛知県一宮市内では知名度が高い。したがって地域内では、飛び込み訪問しても門前払いにあわない。しかし、隣の岐阜市内へ行くとまったく無名に近い。その岐阜市内の市場開拓がこの会社の戦略課題となった。誰をその任にあてるのか。当然、それは営業のエースである。しかし、営業のエースは岐阜支店への転勤を拒んだのだ。

そこで、固定給の割合を増やすことで岐阜転勤を納得させたわけだが、報酬システムを臨機応変にアレンジすることは大切なことである。

研究開発型企業の場合は、もとより成果主義型の賃金制度に適していない。
アメリカのジョンソン&ジョンソンは、ヘルスケア企業として国際市場で事業を展開している。この会社では、内視鏡手術の分野ではライバルに大きく立ち後れていた。そこで、ある有能な経営幹部にこの難しい仕事を依頼した。彼は、「5年間で業界一位にしてみせます」と答えたという。次に報酬制度について話し合った。

当初は、年度ごとの数値目標を決めて、達成した場合にはチームにボーナスを支払う方式を検討した。しかし、達成できない場合には、今まで受け取っていたボーナスがもらえなくなる。そこで、今までの固定給を上回る条件を提示し、努力してもらうことにした。最初の2~3年間はお先真っ暗な開発状況だったという。もし単年度の成果主義であれば、彼のチーム全員が待遇悪化に苦しんだだろう。この内視鏡チームは、4年目にして業界首位の座を獲得したのだ。

大企業といえども複数の報酬システムを使い分け、時と場合に応じて柔軟に対応している。
先の不動産販売会社も、たった一つの報酬制度の限界にぶつかっていた可能性がある。優秀な社員には充分に報いる制度になっているだろうか。冒険や挑戦を促進する制度になっているだろうか。再点検してみよう。