★テーマ別★

カン弁

(これは実話を元にしたフィクションです)

カンボジア料理専門の「メコン」は新潟でも人気のレストラン。メディア対策も巧みなオーナーの勝本一清(61)は、新聞や雑誌、テレビなどに出まくって店をPRした。カンボジア出身の妻が作る家庭料理は評判をよんで、18時の開店と同時に 30席程度の客席が埋まり、23時の閉店まで店内は連日賑わった。

だが好調は長続きしなかった。徐々に客足が鈍りはじめ、予約せずに立ち寄れる状態になった。時には誰もお客がいない時間帯ができるようにもなっていった。メディアにアプローチしても反応が鈍い。

「何とかしよう」とランチ営業も始めたが、毎日 10食程度の売上げにしかならなかった。常連客の一人にオシャレな HP を作ってもらったが集客につながるほどの効果はなかった。

「いい夢はいつか覚めるもんさ」とあきらめかけたある日のこと、商工会議所のセミナーに地元の販促コンサルタント・栗原晶がやってきた。栗原の講演はうまくはなかったが、経験豊富で事例がたくさんあった。名刺交換のときに勝本は、「当店のお食事に招待したい」と申し出た。一週間後、栗原がやってきた。

栗原のアドバイスを受けてメニュー構成を変更し、メニュー表も分かりやすくした。店内のレイアウトや照明も変えた。価格も若干手直しし、メリハリの効いたものにした。

そして、宅配弁当も始めた。最初はシンプルに「カンボジア弁当」と呼んでいたが、いつしかお客が「カン弁」と略して呼ぶようになったので、正式名称も「カン弁」にした。フォーや生春巻き、揚げ春巻き、ココナッツカレー、チキンライス、カンボジア焼きそばなどからセットメニューを五つ作った。いずれも値段は 500円とした。最初は電話と FAX で注文を受けていたが、「カン弁」専用のホームページも作ったところ、そちらからの注文の方が多くなっていった。

「カン弁」はオフィス街を中心に人気が広がった。やがて連日 100食を超える注文が入るようになり、「カン弁」用にスタッフを雇うほどになった。ワゴンの出張販売も開始したところ、そちらでも連日 30食を完売するようになった。

「カン弁」が評判になったおかげで店舗の客足も増えはじめた。

勝本はしみじみと栗原にいう。

あなたのおかげでもう一回、夢を見させてもらっている。今度は覚めないように俺を見張っていてくれ。夢から覚めるのはもう”カン弁”だ。