※文中の個人名・店名は架空のものです。
「ご祝儀に新札を」という人も多い。そんなとき頼りになるのが
行の両替機。店によっては新札で両替してくれる。
しかし昨年から11枚以上の両替は有料になった。たまにしか使わ
私にとっては無関係の話題だが、毎日お客さんに渡す釣り銭を新札
していたお店にとっては一大事である。
「花山君、この給料が新札で払われなくなったらウチの会社が危
いと思ってくれ」
当時20歳だった花山弘は勤務先の理髪店の店主にそう言われた。
店主の苗字をとって「伊吹」という名の理髪店だった。伊吹では、
客に渡す釣り銭も、社員に手渡しする給料もすべて新札をつかって
た。それが店主のこだわりのひとつだったのだ。
それから20年経った昨年、「伊吹」は廃業した。廃業の2年前
が亡くなったが、店主逝去の翌月から給料が旧札になったことに気
いた花山。
まさか本当にその後、すぐに廃業に追い込まれるとは・・・。
花山は今、理髪「花山」を経営している。私はそこの常連だ。
いつも新札で釣りをくれる。毎日何十枚もの新札を確保するのは大
らしいが花山は私に言う。
「武沢さん、うちが新札を出さなくなったときは危ないと思ってく
さい」
花山はまだ40歳と若いのに、そういう古風な考えをもっている
ろが気に入っている。だがあえて私はこう言って彼を冷やかした。
武沢:新札もらって喜ぶお客さんってどれくらいいるのだろう?
花山:それは分かりませんが、嫌がるお客はいないでしょ
武:実は新札だと数えにくくて使いづらいときがある。僕はあまり
れしくないんだ(半分ホンネ)
花:だったら武沢さんにはヨレヨレをお渡ししましょうか?
武:ヨレヨレとか、端っこが折れ曲がったりしているのもイヤだな
花:そうでしょ
武:紙幣にこだわるより早くキャッシュレス化してほしい
花:武沢さん、うちがキャッシュレスをやりだしたら危ないと思っ
ください
武:おいおい、そこまで言うのか。ホームレスもキャッシュレスの
があるというのに?
花:新札で渡す。一見意味がないように思えることに固執するから
そ「こだわり」っていうのでしょ
武:たしかに。でも、コレステロールみたく、こだわりにも善玉と
玉があるよ
花:こだわりとかけてコレステロールと解く、か。
武:その心は、どちらも善悪があるでしょう。形より心。スタイル
りマインド。新札を渡したいという精神さえ忘れなければ、形式
は変化してもよいと思うけどな
花:なるほどねー
花山は何をいっても新札を出す。私はそう思っているからこそあ
てやめろと言ってみた。
本当にやめたとき「花山」は危ない。