経営理念、経営哲学

「物語」を語るリーダーになろう


会社が大きくならない理由のひとつに社長の考えが社員に伝わっていないことがある。理論派の社長は、考えていることが奥深すぎて、言っていることがむずかしく、社員になかなか浸透しない。
その極端な例がこれだろう。
★意識高い系社長の挨拶文、意味が分からなすぎて話題
→ https://curazy.com/archives/123725

会社を大きくする経営者はむずかしいことを言わない。誰にでもわかる言い方をする。意識してそうしているのだ。
たとえば、あなたがパナソニックの創業社長だとする。時代は戦争前の昭和7年。電気製品を安くつくって安く消費者に届けたい。そうすれば国民の暮らしは今よりももっと豊かになると信じている。その思いを社員に伝えるとき、どのように語るだろうか?

会社を大きくできない社長は社員にむかって小難しい顔をしてこう言うだろう。

・・・我々は大量生産によってコストダウンを計り、どこよりも安く製品を売れる会社をめざします。そうすれば大量販売が可能になり、高いシェアが取れる。トップシェアになれば、市場を支配でき、プライスリーダーシップも取れるようになる。そうすれば、売上げも利益も高い会社になることができる。・・・

「意識高い系の挨拶文」よりはマシだが、これを聞かされても社員のハートは揺さぶられない。

会社を大きくした松下幸之助は昭和7年の第一回創業記念式で「水道哲学」いう独自の哲学を次のように1,500人の社員に訴えた。
ほとんどの社員は大いに感動し、使命を自覚することとなる。

・・・私はふと感じたことがございます。それは非常に暑い盛りの出来事でした。大坂の町を、車を引いた方がハッピを脱ぎ、汗をふき、そして暑さにたまらないから道ばたにある水道の栓をひねって水をゴクゴクゴクと飲んでいるわけであります。その姿は非常に楽しそうである。嬉しそうである。一杯の水がかくのごとき喜びを与えるものかということを私は感じたものでございます。

しかしそのときふと思ったのは、この水道の水はですね、やはり一石なんぼというような値(あたい)があるわけです。価格があるわけです。その家が水道を引いて、自分の使いに使っているんです。他人がこれを盗んだら泥棒であります。これは当然である。しかしこういう姿はちょいちょいあちこちに見受けられますが、誰も、ものを盗んでけしからんと言うてとがめない。不作法をとがめることはあっても、飲んだ水を返せというような憤慨は誰もしないんであります。これはどういうことか?

値があるものでも、あまりに値が安く、ただに等しいからなんぼでも飲んでよろしいということになる。私はこれは非常におもしろいと思ったんであります。どれほど貴重な物資でありましても、あらゆる物資が水道の水のごとく安くなったなら、この世の中に貧乏というものはなくなるだろう。安くするということは大量に生産することである、ということをふと感じたわけであります。
そうだ、お互いこうして生産に従事する者として、結局の目的は、たやすく消費するというような世の中をつくるんだ。そこに生産者としての使命があるんだと思うわけです。・・・

その後も幸之助のメッセージは続くわけだが、今日では大量生産・大量販売の考えは支持されない。しかし、戦前戦後の物資が不足する時代にあってこの「水道哲学」は夢のような、そしてワクワクするビジョンであったに違いない。

浪曲や講談が好きだった幸之助は「高尾太夫」(たかおだゆう)を好んで聴いたそうだ。(私も好きになった)
出典:https://www.mskj.or.jp/report/2969.html

この講談は、安い給料の紺屋(染め物)職人と、江戸遊郭「吉原」の最高級の花魁・高尾太夫の恋物語だ。物語が好きな幸之助だからこそ、彼の話には物語が散りばめられていったのだが、意識してそうしていたのは間違いなかろう。

思想や哲学は共感してくれる人がいてナンボ。本人が悦に入っているだけでは何も始まらない。

誰にでもわかる物語にしてあなたの理想を語ってみよう。