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続・四国のA社長の経営相談

一昨日のつづき。

四国で家具製造を営む株式会社AのA社長がネットで我社を調べて電話
してこられた。ネットミーティングしてわかったことは、A社長は50歳
前後の女性で、地元の銀行は情報漏洩が激しく頼りにならないと盛
に訴えておられること。本当はお金を借りて工場稼働を再開したい
だが、貸すどころか以前の金を返せと銀行が言う。
漏洩と返金請求が恐くて地元の銀行では相談できなくなった、とお
しゃる。

私は一時間ほどのスカイプ相談を通して、ひょっとしてこの社長
銀行や同業者の笑いものになっているのではないかというイヤな予
がした。あまりにも地元が敵だらけとおっしゃるからだ。

一縷の希望もあった。
実は財務は優秀なのに、人柄が嫌われているだけかもしれない。そ
思って「決算書を見せてください」とお願いしたところ、翌々日、
書が届いた。「損益と貸借だけで結構です」とお願いしたのだが、
算書の写しがすべて入っていた。表紙をめくって最初のページに貸
対照表がある。私は本能的に右下の純資産の欄をみた。
血の気が引く思いがした。

土地や機械などの資産合計が3,000万円あるのに対し、負債総額が
9,000万円ある。純資産はマイナス6,000万円だったのだ
完全な債務超過である。

急いでページを繰って損益計算書をチェックした。こちらも、かい
状態だった。

・売上高120万円
・仕入れ105万円
・売上総利益15万円
・販売費一般管理費 100万円
・営業利益 マイナス85万円
・営業外費用 50万円
・経常利益 マイナス135万円
とある。

すでに銀行からは返済猶予を受け、利息だけ支払っている状態だ
た。返済が滞り、この収支状態で新規の借入ができる可能性はゼロ
ある。
きっと先代か先々代のときには商売が順調で工場を作ったときには
意の絶頂だったはずだ。だから銀行もすすんで金を貸した。
だが今はそうではない。私は次のような冷たいメールをA社長に送らね
ばならなかった。

・・・
A社長、じっくり決算書を拝見しました。
その結果、きびしいことを書かねばなりません。
企業としてすでに独立した状態ではありません。銀行管理に入って
る状態で、Aさんが銀行に苦情を言える立場ではありません。
仮に今日、会社を解散したとして、機械や車両、土地などの財産を
部売って借金返済にあてたとしても、借金が6000万円払えずに残って
しまう状態です。

会社の土地や機械が帳簿よりもっと高い値段で売れる(いわゆる含
益がある)とか、技術やブランドなどに無形の価値があれば話は別
す。そうしたものを評価する「事業再生」の道も残されているかも
れませんので、お近くの専門家に相談してみてください。私の知人
その仕事をしていますので必要でしたら声をかけてください。

また、会社には財産がないが社長個人には財産がある、というのな
まだ勝負ができる可能性があります。
そうでないのなら新規の借入は無理でしょう。他府県に行かれても
答は同じだと思います。

ひょっとしてAさんご自身の生活が立ちゆかなくなってはいませんか?
資産や年金などがあれば大丈夫かもしれませんが、最低限の生活に
るようなことがあっては大変です。負債がたくさんあっても経営者
責任は無限ではなく有限であり、最低限度の生活をしていくセーフ
ィネットがあります。
事業再生も個人資産も頼れない場合、会社の整理も検討してください。
私的な整理と法的な整理がありますが、お近くの弁護士さんに相談
てみてください。
現時点で申し上げられることは以上です。弊社として具体的にいま
ぐお役に立てそうなことは思いつきませんが、なにかありましたら
ご一報ください。
・・・

あれからひと月以上経つが、A社長からの返信はない。
コンサルティング歴25年、まだまだ私の経験は浅い。日本には380万の
会社があるが、そのなかにはこういう会社も含まれている。自社の
態すら分からずに経営を続けている裸の王様のような社長がいる、
いうさみしい現実が。

※A社長の地域・業種などは実話と異なります。