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無責任呼ばわりされた孫正義社長

中国に伝わる格言めいた言葉に「上有政策、下有対策」というのがある。
そのまま訳せば上(国)に政策あれば、下(国民)に対策がある、となるが、ここでいう「対策」とは、法の抜け道というニュアンスで使わることが多い。
中国国民のしたたかさが伝わってくる言葉である。

「上に政策あれば下に対策あり」、それぞれ自分のやるべきことをやるという意味では理にかなってもいる。

・良い社会づくりにコミットメントする・・・政治家や官僚の仕事
・良い会社づくりにコミットメントする・・・経営者の仕事

である。

以前、NHKでAIを特集した番組があった。
漫才士の爆笑問題が司会で、数学者の新井紀子氏とソフトバンクの孫正義社長がゲスト出演していた。
「AIが広がることで仕事を奪われ、困る人が出るのではないか」という司会の投げかけに対して孫社長は、「考え方次第でいかようにも対策はある」という主旨の意見を述べた。
それに対して爆笑問題の太田光氏は「それは成功者の弁ですよね」とツッコミを入れる。
そうかもしれないと一瞬ひるむ孫社長に対して、新井氏が横から発言したひとことに私は強い憤りを感じた。
こんなことを彼女が言ったのだ。

「孫さんは資本家なわけで、その資本家が実際に仕事を奪われる人に対して、『それは気持ちの持ちようだ』とか『もっと気持ちを明るく持て』いうのは無責任だと思う」

おそらくご本人はこの言葉を用意していたであろうし、視聴者の喝采を浴びるつもりだったかもしれない。
しかし私はピントのずれた、経営の現場を知らない人の意見にしか聞こえなかった。
ソフトバンクが世界的な企業になったとはいえ、いったい誰が孫社長を無責任呼ばわりできるというのか。
どうせ言うなら、「孫さんぐらいの立場の方なら、仕事を奪われる側の人たちのために具体的な対策プログラムをお考えいただいてもよいのではないでしょうか」なら、孫氏も同意したであろう。

ものはいいようで四角い豆腐も丸くなるのである。
救いだったのは、孫氏が抗弁せず、無言を貫いたこと。
私なら、
「無責任とは何ですか。公共放送の場で、あなたからそんな指摘を受ける筋合いは一切ない」
そういって番組を台無しにしたかもしれない。
番組としては多少の炎上や問題場面があったほうが好都合なのかもしれないが・・・。

AIを活用する上での倫理規定などを定めるのは企業や業界の責任だと思う。
だが、AIで仕事を奪う側にあろうが、奪われる側にあろうが、自社を存続発展させるのが経営者の責任。
孫氏はその責任を立派に果たしている。

少子高齢化を問題視し政策でその問題を解決するのが政治家。
子高齢化社会に備えて新しいサービスを起ちあげるのが経営者。
学者も含めた産官学や、業界団体、経済団体が歩調をあわせる取り組みも大切だが、責任を追及されるのはあくまで自社の経営に関してである。

★その番組に関するブログ記事(番組動画もあり)
→ https://oreno-yuigon.hatenablog.com/entry/2018/10/09/085930