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心理的安全性と拘束力の関係

経営計画は毎年作っているが、社員の実行率がとぼしい。
何がいけないのか研修と会議を通して指導してほしい、と A 社から依頼があった。
そこで先月と今月、3時間の研修会議を二度開催して分かったことがある。
それは、いままでの A 社の長所が短所になってあらわれているということ。

もともと人間の長所と短所は表裏一体である。

「気が長い」という長所は「のんびりし過ぎ」という短所になるだろう。
「気が短い」という短所は「決断が早い」という長所につながる。

A 社の場合、部下の自主性を重んじて、のびのびと仕事をさせてきたのが長所。
その結果、強制力には欠ける社風ができた。
長所のおかげで、経営計画の実行率は乏しくても、最終成果はきちんと上がる責任感ある強者幹部が育った。
A 社長はいつも穏やかで、まったく部下を叱責したり強制力を発揮しないのでそのことを質問してみた。
するとこんなことを言われた。

「だって人は他人に管理されたくないものです。いくらそれが良い方法と分かっていても、強制されたらやりたくありませんから」

「やれ」ではなく「ボクだったらこうする」「あなたにはこのやり方がいいんじゃない」と提案するのだそうだ。
素直で優秀な若者は大企業に行く。そういう社員には具体的なマニュアルを与えれば、その通りに動いてくれる。
だが中小企業にはクセのある人材が集まってくる。
マニュアルは読まないし実行しない。
A 社長はそのことをわきまえておられるようだ。

B 社長は「うちの社員は自分の意見を言わない」と嘆いておられた。
そこで実際に B 社を訪問し、会議に参加してみた。
発言が乏しい理由が一発でわかった。

・お前、そんなこと言ってるからダメなんだよ!
・何度言ったらわかるんだ。俺が言いたいのはそんな事じゃなくて…
・なにが言いたいのかよく分からん。はい、次の人の意見は

社員が発言したことが社長や専務に大声で批判され、攻撃されていたのだ。
ある課長など、「あなた何年うちにいるの」と専務に皮肉られていた。
発言できるのは役員から可愛がられている一部の人だけ、という有様。
この社風を変えないかぎり、優秀な人材ほど辞めてしまうのではないかと申し上げた。

アメリカの Google が2012年から4年間かけて実施した大規模労働改革プロジェクトによれば、『心理的安全性が成功するチームの構築に最も重要なものである』と結論づけられた。
「心理的安全性」が大切なのだ。
成功するチームは、自分の意見が誰からも批判されたり、攻撃されたりすることがない。
それを「心理的安全性」という。

経験も知識も乏しい自分の発言には値打ちがない、そう信じ込んでいる人は意外に多い。
そんな人でも発言できるのは心理的安全性があるから。
それ以外に、チームメンバーに次のような感情があれば意見はでない。
「叱られる」「批判される」「否定される」「笑われる」「バカにされる」「無視される」「自分の評価が下がる」。

おそらく B 社は「心理的安全性」が極端に低い。
それに対して A 社は「心理的安全性」が高い。
安全性が高いことは素晴らしいことだが、それだけで Googleのような良い企業が作れるわけではない。

「俺はオレ流でやらせてもらう」というワガママ容認につながらないよう、拘束力も必要になる。
発言は自由にできるが、行動は自由にできるわけではないのだ。
どういう行動で成果をあげようとしているのか、計画をださねばならない。
経営計画にはその計画の方向性が記載されているはず。
それを実行しないというのなら、それに替わる新たな実行計画を提出し、社長の許可を得る必要がある。
そうしないのなら、経営計画を実行することが管理職や社員の責任なのである。