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プロの緊張対策

3年前の一軍の試合で活躍し、ヒーローインタビューで「奈良から来ましたジョニーデップです」と場内の笑いを誘った岡本和真選手。
言わせた阿部選手は「100点満点」と親指を立てた。

チーム内では「反町隆史です」と自己紹介しチームに溶け込もうとしていた時期もある。
もともと緊張しやすいタイプの自分を少しでもリラックスさせる知恵でもあった。
だが、陽気な振る舞いはうわべだけのこと。
一軍ベンチに座っていても内心はビクビクしていた。
二軍では打てるのに、一軍ではまったく通用しない。
岡本は深刻に考え込んだ。
今後はいつ二軍に落とされるのだろうか」。
ネガティブなことばかり考えてしまった。

今年は2月のキャンプ in から陽気に振る舞うこともネガな考えも捨てた。
ただひたすらバットを振りつづけた。
オープン戦では地味ながらも結果が出た。
毎試合1本ペースではあるが、ヒットを打った。
高橋由伸監督の信頼もかろうじて勝ち取った。
公式戦の開幕はスタメン6番で出場。
最近の活躍ぶりをみて、5番に昇格し、まもなく4番を狙えるところまできた。
奈良の智弁学園からプロ入りして4年目、21歳9ヶ月の若さである。

キャプテンの坂本選手が、「岡本サンに回せば何とかなる」と語るほどチーム内の信頼も厚い。
現時点でセリーグの打点王であり、チーム二冠王なのだから、笑いを誘って自己紹介する必要はない。
試合後のヒーローインタビューでアナウンサーが「自己紹介はありませんか?」と誘い水を向けたとき、「今シーズンは野球に集中したいので、やりません!」ときっぱり断った。
もう絶対に二軍に戻りたくない、という気持ちがうかがえる表情だった。

「こんにちはジョニーデップです」と高田純次がやるからウケる。
同じことをスポーツ選手がやると、内輪ウケするだけのこと。
ビジネスのセミナーや講演でも早くお客の心をつかもうとするのは結構だが、仮に私がこんな挨拶をしたらどうだろう。
「こんにちは、名古屋から来ました羽生結弦です」
きっとイヤな空気が流れるはずだ。

50歳半ばまでは緊張のくせが抜けず困った。
つかみに手品をやろうとしてサークルに入ったこともあるが、上達しなかったのでやめた。
いきなり講師が鮮やかな手品を披露したら、「この講師どうしたいのだろう」と不審に思われるはずだ。
ビジネスに「出落ち」は不要なのである。
笑顔と声の明瞭ささえあれば、あとは、にじみ出る実力と入念な準備を信じて話をすすめれば、やがてこちらのペースになる。