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金額のインパクトが人を動かすときがある

<最近聞いた実話を元にしていますが、内容は少し加工しています>

「社長、学生の集客不足がひびいて今期の採用目標が達成できそうにありません」
人事担当役員・ N 部長の叫びだった。
精密部品の M 社は今期10名の新卒採用を予定しているが、昨年11月の段階でまだ8名しか決まっていなかった。
あと1~2ヶ月のうちに2名の募集に成功しないと来期以降の事業計画に影響をおよぼす。

N 部長は M 社長から求人費の増額許可をもらい集客を計るが、いずれも効果がなく、今年の採用戦線は決着がつきつつあった。
「今期は8名でご容赦ください」と頭を下げるつもりでもあった。
だが M 社長は目標未達成が大嫌いで、ありとあらゆる手を講じて最後まで最善を尽くすタイプである。

「成功報酬で動いている会社もあるだろう。そちらの動きはどうなんだ」と社長が尋ねた。
N 部長が答えた。
学生1名の採用につき100万円の謝礼で契約している求人会社が2社ありますが、いずれも今シーズンは期待しないでくれ、と言ってきています。どうやら内定が出ていない学生はほぼゼロという状況のようです」

「だったら、社員に協力してもらいなさいよ」
「はい、もちろんそちらも八方手を尽くしています」
「どんな手を打ってるの?」
「はい、社内報最新号のトップページで人材急募の記事を書いているのと、今月の幹部会議でも幹部全員に私から再度、求人協力のお願いをする予定です」
「社員が新しい社員を紹介したときの謝礼は幾らだっけ?」
「はい、入社後三ヶ月後の在籍を確認できた時点で15万円の謝礼を払うことにしています。昨年度からこのルールをつくっていますが、今のところ、まだ紹介入社はありません」

「まだゼロなのか・・・」社長はソファにもたれかかり腕を組んだ。
M 社長は一代で年商100億円超の精密部品商社をつくりあげただけに独自のマーケティングセンスをもっている。
天井を見上げて数秒考え、 N 部長が驚くようなことを口走った。

「社員にも紹介料を100万円支払いなさい」
「え、100万円も払うのですか?」
求人業者に100万円払えるのだから社員に払ったっておかしくはないでしょ」
「そうかもしれませんが、社員紹介制度というのはだいたい5~10万円というのが通例で、今の15万円でも十分高い方かと。医師の業界でも20~30万円が相場と・・・」
「ばかもん。よその会社はどうでもいい。紹介謝礼が高いか安いかを決めるのは他社じゃない。現実にまだうちの社員は誰も紹介してくれていないということは、安いからだよ。100万円に上げてみなさい」
「わかりました。そのように動いてみます」
「まず社員の反応を10日ほど見て、反応が鈍ければ社員の親御さんや退職した OB ・OG 社員にも告知しなさい」
「親や退職者にも100万円払うのですか?」
「そうだよ、やってみなさい」

ひと月半経った正月あけ、M 社には4名の社員紹介があり2名の採用がそこから決まった。
紹介者には夏の賞与にプラスして100万円が支払われることになった。
(もちろん税金や社会保険は天引きされるが)

今回はふたりとも既存社員からの紹介だった。
一人は女性社員で、この夏に嫁入りが決まっているそうだ。
すぐに寿退社するわけではなく、「最高の嫁入りプレゼントをもらった気分です」と大喜び。
紹介された甥っ子も「納得できる会社から内定をもらえてうれしい」と喜んでいるそうだ。

ダメなら諦める人が多い中、ダメだったらやり方を変えればいいととらえる人がいる。
時には、金額のインパクトが人を動かすこともある。
含蓄あるエピソードではないだろうか。