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商売と経営の違い

ある経営者が訪ねてきた。
「業績が伸びなくて困っている。どのようなことでも良いのでヒントが欲しい」

詳しく聞いてみると、10年前に今のやり方に変えたときはとても好調だった。だが、同業者に真似されるようになってから売上は鈍化。
最近は前年割れが続いているという。

私はまず経営計画書を作ることをご提案した。まだ一度も作ったことがないそうだ。それを半期・四半期・毎月・毎週で社内チェックするやり方をお話しした。
するとこの社長、最初は熱心にメモをされていたが、途中でため息をつきはじめ、やがて腕組みしてしまった。

武沢:どうしました?
社長:そんな面倒くさいことをせねばなりませんかね?
武沢:はい、せねばなりません。私はそう思っていますが、やりたくないのですか?
社長:もっと即効性のありそうな助言が欲しいのです

この社長は「何が売れる」「こうすればもっと売れる」といった即効性のある商売の話を聞きたいようだ。そもそも商売と経営を混同しているフシがある。

10年前に今のやり方に変えたときも人の助言があったという。
うまくいかなくなったので、また周囲に助言を求める。それではいつまでたっても、自分で考え、行動し、結果を出す人にはなれない。

「社長、ひょっとして経営がやりたいのではなく、商売か金儲けが好きなだけではありませんか?」と聞いてみた。
すると社長は笑いながらそれを認めつつ、商売と経営の違いを私に質問した。むずかしい話は聞いてくれそうになかったので、ホワイトボードに短くこう書いた。

・・・・・
商売…商才に長けた人が情報や人脈を頼りに行動し利益をあげる活動
経営…商売+人材+仕組みで利益をあげ理念を実現する組織的な活動
・・・・・

「商売」は個人的活動であるのに対し、「経営」は組織的な活動である。
また、「商売」は個人と組織が利益をあげることを目指す。
一方の「経営」も個人や組織が利益を得るのは一緒だが、さらには社員や顧客や社会が利益をあげることをも目指しているのが特長。

「なるほどねぇ、そう言われれば私は根っからの商売人ですわ。
ただ少しだけ経営に興味があるのも事実です」と社長。

ジム・コリンズ(「ビジョナリーカンパニー」)はこう述べている。

「なぜ偉大さを追求しなければならないのか、そこそこの成功で十分ではないのか」と考えるのなら、おそらくその人は、仕事の選択を間違えている。

次のような考えの人は特に経営者に向いていない。

できれば働く時間は少なく、休みは増やしたい。仕事よりも遊びの方が好きだ。部下をマネジメントする時間があるのなら、自分が商売していた方が効率よく儲かると思う。

「いかなる苦労を買うことになろうが、私はそれを実現したい」と思える経営目標を掲げるべきであり、経営理念が大切だというのもそこに理由がある。
商売人から経営者に変わろう。経営計画を作ることがその転機になるはずだ。