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佐久間社長の大胆 M&A アプローチ

※社名・個人名は仮のものですが、内容はほぼ事実。敬称略。

「俺の会社を買わないか」と父の方から言ってきた。

佐久間設備株式会社の佐久間太朗社長(33)は最近まで設備会社に勤めていたが、昨年開業した。父は隣町で同業の会社を経営し、社員が20人ほどいた。

「会社を買うってどういうこと?」と尋ねる息子にむかって66歳になる父はこう言った。
「幸か不幸か内部留保がほとんどないので、資本金の500万円だけ出してくれればいい。そうすれば俺の会社がお前のものになる」
「え?」
「あとは俺と社員を部下として使えばいい」
「500万円もないけど」
「金の心配はいらない。銀行を口説いて融資を取り付けるから」

こうして父の会社を買収した佐久間は、自分の会社(社員5名)と父の会社の両方の社長になった。それぞれに長所を活かし合うためにあえて会社をひとつにしなかった。その後、ふたつの会社は相乗効果を発揮し、ともに高い成長をしている。

「成長をお金で買える M&A っておもしろい」
そう実感した佐久間は今、M&A 意欲が高い。あえて銀行や M&A専門会社を介さない。独自でアタックする佐久間のやり方は独特だ。

「どうやって M&A すべき相手を見つけるのですか?」と尋ねるとこんな答えがかえってきた。

「いたってシンプルですよ」
銀行や信用調査機関と接触し、地域内の同業者で経営者が55歳以上の会社を教えてもらう。息子や娘が社内にいないことが条件。
そういう会社は必ずある。いまアプローチ中の会社も2社ほどある、と佐久間。

「どうやってアプローチしますか?」と私。
「それもいたってシンプルです。ただ電話して意向を伝えアポを取るだけです。断られても失うものはありません」
「相手の社長は気分よくアポに応じますか?」
「今接触中の会社は、設備工事の見積りで直接ぶつかっていたコンペティターでした。それもあって、”あの佐久間か”と最初は敵対的でしたが、電話口で誠実にねばっていたら、”どうせ断るにしても一度ぐらいは会ってやる”と言われました。相手は58歳の社長でした」

以下、ホテルのロビーで会った時のやりとり。

佐久間:今日はお時間をつくっていただいてありがとうございます。
相手:ふざけんなよ。商売敵(がたき)がいきなり電話してきて会社を買いたいって言いやがって、どの面下げてんのか見てやろうと思って出てきたんだ。さっさと要件を話しなさい。

ピリピリした空気だった。

よろしければお飲み物とサンドイッチでも召し上がりませんか?
という佐久間の提案を受け入れた相手の社長は「でもあんた、思ってたよりも若いんだね」と言い出した。

佐:はい、33歳になりました
相:俺の息子みたいなもんだな(初めての笑顔)
佐:知らないことだらけの若輩ですがよろしくお願いします
相:俺の会社を買いたいらしいが、売るつもりはないよ
佐:はい、結構です。私も絶対買いたいだなんて思っていません。御社はすばらしい会社なので、なにかでご一緒できればうれしいと思っているだけです
相:ふ~ん。で、あなたは設備業は何年やってるの?
佐:社会人になってからずっとですから10年になります。ただ会社経営はまだ2年ほどしか経験がありません
相:俺は経営を15年もやってるよ。少々おつかれ気味だがね
佐:15年もよくやってこられましたね
相:なになに、まじめにやるしか取り柄がないから。俺なんかもともと技術者だから経営者の器じゃないしな。気苦労が多くて大変だ。
佐:お子さんとかはあとを継がれないのですか?
相:二人とも東京の大会社におさまって親父の会社なんか眼中にないようだ。

結局、この日の会談は3時間に及んだ。

「次は俺のテリトリーで飯でも食うか」と言ってきたのは相手の方だった。「イケるんだろう?」と酒を飲む格好を見せる相手。
「その日は車を置いてうかがいます」と答えた佐久間。

この話は現在進行形なのである。