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35から自分を造りかえた O 氏

社長は社員に比べて勉強する機会や外部の人と出会う機会が多いので、能力的にも意識的にも成長しやすい環境にある。
それでも社長によって成長スピードに大きな差が出るのは当然である。

「俺の図面に文句があるのか!」と大声を出す職人根性丸出しの機械設計士がいた。
当時30代半ばだった O 氏は自分のことを「生涯 一エンジニア」と思っていた。
(以下、O 氏の敬称略)

ところが勤務先の社長が会社をたたむと言い出した。後継者がいなかったらしい。O は後継者に立候補した。周囲の社員は皆驚いたが、社長はもっと驚いた。一番社長に向いていなさそうにみえた社員が立候補したからだ。

会社の株を買い取るのに○千万円の金がいる。だが O に蓄えはほとんどなく困り果てた。
するとOの父が「俺の金を使え」と貸してくれた。それは父の退職金であり、老後の暮らしを支える大切なお金だった。
O は「絶対返すから」と約束し、父の世話になった。

O は客先回りを始めた。
「俺の図面に文句があるのか!」と言っていた O が「お困りのことがありましたらお気軽に何なりと」と腰を低くして挨拶回りを始めた。

立場が人を作るというが、O も自分の豹変ぶりが不思議だった。
O が社長になって始めたことがある。始業は8時半だが、7時に出社することにした。そして約1時間本を読むことにした。

今まで読んだことがない経営関係の本を中心に読み始めた。昼の休憩は一時間あるが、昼食は15分で済ませる。残った時間はすべて読書することにした。それだけではない。週末(土日)は原則的に本を読むことにした。趣味の自転車と奥様との買い物のとき以外は読書にあてる。こうすることで平日は1時間半×5日、週末は二日で8時間、合計すると一週間で58時間、一ヶ月で232時間読書できる。

仮に一冊の本を読むのに4時間かかるとしても、なんと60冊近く読める計算になる。実際に何冊読んでおられるかは聞いていないが、この読書量が O を社長として大きく育てた。

あれから25年経った。最近、社員のひとりに会社を承継し、自らは会長に就任した。「今後は業界の発展のために骨を折りたい」という。

伸びる人は伸びる理由がある。なにより本人に伸びたい、伸びねば、という意思がある。
それがない人は、経験したこと以下しか成長しない。たったそれだけのシンプルなことである。