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松下幸之助を知らない経営者が増えている

ショックなことに、マツシタコウノスケやホンダソウイチロウを知らない人が増えている。「誰それ?」と私に最初に言ったのは10年ほど前、我が家の息子だった。
「あ~、そうなんだ。知る機会がないんだ」と隔世の感をおぼえたものだ。
それからというもの、松下幸之助を知らない若者が増えていることを前提に話をするようにしていたのだが・・・。

最近、ある経営者の集まりで松下幸之助の DVD を放映し、ディスカッションした。松下幸之助は言うまでもまく、昭和の日本を代表する名経営者であり、「経営の神様」とまでいわれた立志伝中の人物である。かつては日本人なら全員が知っていたはずだ。

DVD 放映会は経営者ばかり。今さら松下氏の解説など要らないはずと、いきなり DVD を流し始めた。それがよくなかったようだ。

多くの経営者が食い入るように映像に注目していたが、ひとりの経営者がさかんに首を回して退屈そうな仕草をしている。他の人は後半、泣いていたが、氏は眠気をこらえるのに必死の様子だ。

「あきらかにあの人にだけは届いてない」と分かった私は放映後、まっさきに氏に感想を求めた。案の定、「ピンときませんでした」という答えがかえってきた。松下幸之助という人が何をした人で、どこが立派な人なのか分からない。だから松下さんの発言を聞いていても何もイメージがわかなかった、という。私は呆然とした。

ピンとこなかったという氏の年齢は40を少し回ったところ。
私は一瞬、自分が彼のおじいさんぐらいの年齢(100歳ぐらい)かと錯覚してしまったが、わずか20年ほど長く生きているだけである。
たった20年で歴史はかくもあっさりと風化していくものだと教えられた。

「嘆かわしいというか、寂しいというか、そんなものかね」と今朝、床屋の主人にそれを話した。すると主人が思わぬ名言を吐いた。

「そりゃそうですよ、武沢さん。私だって40前半ですが、松下幸之助さんのことは名前ぐらいしか知りませんもの。人が覚えなきゃならんことは時代時代で違ってくるんですから。だから教育ビジネスはすたれないし、昔のことを知っている人は大切にされる。武沢社長のメルマガが毎日読まれるのは、人の常識がどんどん移ろっていくからですよ。決してそのことを嘆かわしく思う必要なんてない。むしろビジネスチャンスがそこにあると思わなきゃ」

主人の言うとおりだ。商売ベタの主人にしては良いことを言う。一本取られた私は苦笑するしかなかった。