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相撲の立ち会い変化について思う




大阪府立体育会館での大相撲春場所が終了した。
新横綱・稀勢の里の奇跡の逆転優勝で幕を閉じたわけだが、なにかと話題の多い場所だった。伏線は、大関・照ノ富士が琴奨菊との一番で変化したこと。連勝すれば大関復帰がかかっていた琴奨菊は、照ノ富士相手に頭からぶつかっていった。その一瞬、照ノ富士は変化し、はたきこんで勝利した。

あっけない相撲に対し、場内からはブーイングが起きた。この勝負で琴奨菊の大関復帰はご破算となった。
解説者も照ノ富士を批判した。だがこの勝利によって照ノ富士は唯一の一敗力士となり、土曜日がおわった時点で優勝に一番近い立場に立つことができた。

その翌日(千秋楽)、照ノ富士の相手は星の差ひとつで追いかける新横綱・稀勢の里だった。
稀勢の里は二日前の相撲で左肩を大けがし、とても相撲をとれる状態ではなかった。事実、前日の鶴竜戦では肩の痛みからあっけなく土俵を割っている。

新横綱の責任として土俵にあがるだけで立派、と解説者は賞賛した。
モンゴル出身で今場所元気な照ノ富士、一方、相手は手負いの新横綱・稀勢の里(茨城県出身)。
館内のファンはほぼ全員が稀勢の里に声援をおくった。もちろん、本割で勝って優勝決定戦を見たいわけだが正直いって勝てそうな雰囲気はなかった。

いよいよ本番。
一回目の立ち会いで稀勢の里は肩をかばうために立ち会いで変化をした。だが行事待ったがかかり、仕切り直し。手の内がばれた稀勢の里はピンチだった。つぎの立ち会いで稀勢の里は逆方向に変化した。
とにかくぶつかる衝撃を避ける作戦だ。そして稀勢の里は勝った。当然、館内は大いに沸いた。

ついに優勝決定戦。
注目の立ち会いで稀勢の里は諸手突きをした。これも相手に頭から来られるのを防ぐ手だ。そして押し寄せる照ノ富士を小手投げにやぶって逆転優勝した。館内は騒然とし、稀勢の里は人目をはばからず泣いた。辛口で有名な解説者も絶賛した。横綱審議委員会は「彼を横綱に推挙してよかった」と賛辞をおくった。

私はこの相撲をみていて、照ノ富士が彼らしくない相撲を二番続けてとったことが不思議だった。優勝すれば、自分自身の横綱も視野に入るだけに、手を抜くはずはない。
ネットで調べてみると、もともと大けがしていた膝の状態がかなり悪く、本場所の後半戦からはかなり深刻な症状だったという。

琴奨菊戦で立ち会い大きく変化したのは、勝ち星欲しさだけでなく、膝をかばうための作戦でもあったというのだ。
照ノ富士の変化にはブーイング、稀勢の里の変化にはおとがめなし。
ひいきの日本人、しかも稀勢の里はけがをしているからやむを得ない面もあるが、そもそも相撲の勝ち方に文句をつける資格が第三者にあるのだろうか。

相撲の勝負手にある以上は、「はたき込み」だろうが「首投げ」だろうが「とったり」だろうが技は技。誰がどのようなタイミングでどんな技をかけようが、作戦なのだから文句は言えまい。
仮に横綱が立ち会い一瞬の変化をして勝ったとしても「見事な変わり身でしたね」ぐらいの解説をしてやっても良いのではないか。変化して勝つことを覚えてしまって自力がつかなくなることはあり得る。
だが、本当にそうなったとき、後から後悔するのは本人なのだから。