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伊畑信次社長の場合



※本稿に登場する人物、会社名は架空のものです。
ただし、出来事そのものは実話です。

伊畑信次(いばた しんじ、仮名)は今年40歳。
学校を卒業したあと、東京で住宅販売の営業マンをやった。その後、仙台で不動産販売の仕事をし、結婚を機に38歳になる年に地元・秋田に戻った。そして会社を興すことにした。

「どうせやるなら、秋田市でナンバーワンになれる可能性があることを仕事にしよう。できれば、自信のある営業の仕事をやろう。しかも販売する商品は、時流に乗った成長性の高いものでありたい」

いったいそれはどんな商品、どんな事業だろうか?
伊畑は3ヶ月間考えつづけた結果、「太陽光発電」と「エコキュート」の訪問販売会社を立ち上げることにした。

自分ひとりで訪販していては自分が食べるだけでおしまいだ。それではいつまでたっても秋田で一番になれない。最初から社員を採用しよう。事務員も必要だ。会社名は、エコキュートと太陽光でお湯が沸くから「株式会社ワクワク」(仮名)にしよう。

株式会社ワクワクが打った求人広告には数名の応募があった。面接してみたら、本人の方から次の日に辞退された。理由は、会社が小さいことと、給料が安いこと、勤務時間が不規則になる訪問販売の仕事である点が嫌われた。

「正攻法じゃダメなんだ」ということを伊畑は学んだ。
結婚したばかりの新妻に聞いた。「どういう会社だったら就職したいと思う?」
妻は即答した。「一日3時間で帰れる会社」。
絶句している伊畑の前で妻は続けてこう言った。
「でもそんな会社は秋田にないでしょうね」

「よし、秋田にないのなら、自分がその会社を作ってみよう」と、伊畑は次の求人広告でこんなアピールをした。

「13時~16時の3時間勤務。残業ゼロ!給料は自分でお決め下さい」

数万円の求人広告だったが、数十名の応募があった。
自宅の田んぼや畑の野良仕事を手伝っている人や、親を介護している人、子供が小さい主婦なども社員として応募してくれた。

数十名の応募者の中から正社員3名、歩合制社員5名を採用できた。
いずれも優秀な人材だった。だが、伊畑は彼らをすぐに営業現場に向かわせなかった。最初の1ヶ月は売上ゼロで構わない。お客様第一の経営方針を理解してもらうための社員教育に力を入れた。また、伊畑自身の販売にも同行させた。同時に、充分に練り上げた商談トークを完全マスターさせるために、毎日ロールプレイングした。

鍛えられた伊畑の営業軍団は、二ヶ月目からフィールドに出る。
飛び込み訪問である。
1.呼び鈴を押す
2.相手が応答するので、用件を伝え、ドアを開けていただく
3.玄関先で立ち話をし、奥にあげていただく
4.玄関先(応接室)で商談をし、販売をする

伊畑軍団は「2」をクリアすれば販売締結する確率が5割である。
しかも平均客単価は200万円近い。

こういう販売チームを作り上げた株式会社ワクワクは初年度こそ経費がかさんで営業利益は50万円に過ぎなかった。だが、二年目の前期は5,200万の利益が出た。そして今期(第三期)は7,000万円の営業利益を見込んでいる。

「本当に全員が3時間勤務なのですか?」という私の質問に対し、伊畑社長はこう答えた。
「例外は私だけです。私は朝から晩まで仕事をしていますから。(笑)
私以外の者は全員3時間勤務です。原則は午後勤務ですが、週末などはお客様にあわせて午前勤務になる社員もいます。
世間企業のように9時間勤務で500万円稼ぐのではなく、3時間勤務で1,000万円稼いでいただきます。そうすれば6倍の生産性をあげることになりますし、我々のやり方ならそれが可能だと思います」