昨日のつづき。
仕事がうまくいかず困りはてた若者が成功者 A さんを訪ねた。
食事をご馳走になりながらたくさんの教えを受けた若者だが、
すると、「君は『無門関』の清税孤貧(せいぜい こひん)に出てくる若者にそっくりだなあ」と A さんが言う。
今から千年前の中国・宋の時代に書かれた禅の公案集『無門関』
そのなかの「清税孤貧」(せいぜい こひん)のエピソードが若者にそっくりだというのだが、
「どうやら君は少々飲みすぎたようだね」
A さんは 笑いながら若者を直視した。「いよいよもって君が清税に思えてきた。無門関を読むつもりがないようなので、
ギムレットをふたり分オーダーし、A さんは「清税孤貧」(せいぜいこひん)の話を始めた。
千年以上も前の中国での話。
酔いも回ったのだろうか、僧が問うた。「和尚、
直接、金品をねだった修行僧。よほど困っているとみえる。
和尚は「清税さん」と言った。「はい」と修行僧。
「
無門関の作者は言う。
「和尚ほどの人物なら、最初から清税の中身を見抜く眼がある。
きょとんとする若者。「僕の解釈はこうだ」と A さんが自分の理解を語った。
酒を三杯も飲んでおいて、
その智慧を忘れてしまって「金を貸せ」「物を呉れ」というのは、
「・・・・・」
若者は下を向いて黙っていた。なにか考えているようである。
「君の考えを聞いてもいいかな」と A さん。若者は屹然と顔をあげた。
「私が清税だというのですか」
「断定はしないが、
若者は立ちあがった。憤慨しているようでもある。
「先に帰るのかい?まだギムレットがくるよ」
「いえ、もう結構です。
「多少なりともお役に立てたかな」
「・・・、よく分かりませんでした。
「そうかい」
「では、失礼します」
若者は立ち去った。 A さんはテーブルに残されたふたり分の伝票を見ながら、無門の最後の一節をそらんじた。
「うたって言う。笵丹みたいに貧乏で、項羽のように気概あり、