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事業とは何か


事業とは何か、という本質的な質問に答えることができるだろうか?
これはかなり、むずかしい問題である。

ドラッカーは、古典的名著『現代の経営』において、「事業とは顧客を創造することである」と定義し、次のような考え方を真っ向から否定している。

◇事業とは、利益を上げるための行為である
◇事業とは、環境適応業である

さらにドラッカーは、利潤動機なるものの有無も関係ないとし、それを次のような例で補足している。

「『ジム・スミス』なる人物が事業を行っているのは金儲けのためかどうかは、彼自身と記録係の天使だけが知り得る問題だ。そのような事は彼が何をいかに行うか、ということとは関係がない。」

「ネバダの砂漠でウラン鉱石を探している山師の仕事は、巨万の冨をつくるためにやっている、と説明されても、何も知ることができない。」

このように、事業を営むうえでの動機を問題にしていない。しかし、京セラの稲盛氏をはじめとして、多くの経営者が「動機善なりや、私心なかりしか」と問いかける。
一見すると矛盾した考え方だ。
前者を「結果論」、後者を「動機論」と呼ぶことにする。この二つの考え方は、ちょうど「性善説」と「性悪説」や「唯心論」「唯物論」などのように、終わることのない議論でもある。唯一の正解というものが存在しないのである。

「結果論」でものを考えるなら、事業とは顧客創造であり、社員に対しては、心や動機ということよりも、「型」とか「形式」を要求する。
礼儀作法でも、まず「型」を守らせることで相手に対して礼を尽くす。

「動機論」でものを考えるなら、事業とは社会的にも人間的にも正義の追求と自己完成の場である。
社員に対しても、ものごとの本質をとらえた指導をしようと試み、動機や心を大切にする。
正義とは何か、が問われるが、ここではやめよう。

誤解があるといけないので補足するが、欧米型経営=結果論、日本型経営=動機論ではない。
また、東洋思想が「動機論」なのでもない。あくまで個人の判断にゆだねられる問題なのだ。だからこそ経営者は、揺れ動く。

あなたにとって事業とは何か?
唯一の客観的な正解は存在しない。あなたが決めなければならない大切な問いかけなのである。
私個人は「動機論」の持ち主だが、「結果論」の経営者も肯定できる。