経営者は人前で話をすることが多い。社内で、社外で、団体の会合で、結婚式で、いたるところで話をしているはずだが、意外に改まった席でのショートスピーチが得意という人は少ない。
そこで今日は、改まった席で社員に向かってスピーチすることが重要だ、というお話しをしたい。スピーチのテーマは経営に関する素朴なものなら何でもよい。素朴なのがよいのだ。例えば、
・なぜ会社を成長させたいのか
・なぜ会社には今以上の利益が必要なのか
・なぜわが社はお客様に支持されているのか
・なぜわが社は社員に対して能力開発するのか
・今後どのようにして販売力を高めてゆくのか
・わが社は同業他社と比べて何が違うか
・わが社のIT戦略は
・わが社の将来ビジョンは
・・・etc.
などだ。
改まった席というのは他でもない。みんなの前へ出て、スピーカーとして時間内で話をするということで、朝礼でも会議でも何でもよい。普段やっている会議前のあいさつなどと違うのは、「今から私は○○について話をするので聞いてほしい」と、主題を明確にしてから2~3分という短い時間で練習済みのスピーチをすることだ。思いつきで行う“ぶっつけ本番スピーチ”ではいけない。
「その30分、私に下さい。」
某社経営会議は午後7時に閉会するはずだった。だが、その30分前にはすべての議題について結論を出した。「週末だし、このまま閉会にしよう」というムードが流れ始めたとき、私はその30分を欲しいと社長に申し出た。
「もちろん結構ですが武沢さん、何をするのです?」と社長。
「スピーチ大会をしましょう。」
「えっ?この4人で。」
「はい、ゲームのルールは簡単。『なぜわが社は成長していく必要があるのか。』というテーマで二分間スピーチを全員順番にやりましょう。
「まじですか?」
「はい、まじです。普段みなさんが部下に話したり書いたりしていることをスピーチにするだけです。気負わずにやってみましょう。とはいえ、今から数分間だけ作戦タイムを差し上げます。メモ用紙にスピーチの骨格を書き出して準備しましょう。」
「なるほど。とにかくやってみましょうか。」
作戦タイムを終え、所定の位置に立って順番に話す。一人目はわずか70秒しか話せない。二人目は90秒。社長はさすがに1分56秒きっちりと話をまとめた。
一巡してから感想を尋ねると、
「おかしいな、ふだんおしゃべりだと言われているのに。いざとなると緊張しちゃいますね。」と一人目のH氏。
「デキは30点。追加したい内容があるのでもう一周やりましょうよ。」と社長。
二巡目が終わった。
時間の使い方も内容も格段に良くなった。スピーチを制限時間内にてきれいにまとめることは簡単にできるようになる。きっと、あと数回も循環すれば問題ないレベルに到達する。
ただし、大切なことはきれいなスピーチをすることではなく、効果があるスピーチをすることだ。効果があるスピーチとは、
・内容がわかりやすいこと
・心のスクリーンで映像を上映しながら聞けること
・印象に残ることフレーズ(言い回し)があること
・話し手から発散する人間味や迫力が聞き手に伝わること
・行動へと駆り立てる何かがあること
を満たすことである。
そうした効果的スピーチをするためには、試験台が必要だ。つまり練習相手である。社員では練習台にならない。上司の話だから友好的に受け入れようという素地が最初からある。まったくそうした関係がない第三者に話をするのが望ましい。
例えば、社外の友人、息子・娘・伴侶・父母や親戚などの家族に評価してもらうのだ。
そうした仕事上の利害関係が及ばない人たちに、「今から私は○○について2分間だけ話をする。一生懸命に話すので一生懸命聞いてほしい。そしてどのように思ったか、あとから感想を聞かせてくれないか。」とやる。
<明日に続く>