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松陰のほめ上手

Rewrite:2014年4月2日(水)

社員教育は大切だ。「教育は社長の仕事」とまで言う人がいるほどで、社長が強い気持ちを持たないと教育は始まらない。

しかし、社員を教育することが社長の仕事なのではない。それよりも社内に教育的な雰囲気や環境をつくることの方が重要なのだ。
教育的雰囲気とは何か。
それは社員の成長を頻繁に話題にするということである。

・「A君は伸びたねぇ」
・「B君はちょっと伸び悩んでないかい」

というような会話がある会社では部下は伸びている。逆に、まったくこうした話題がない会社もある。それは、社員が成長するという視点が欠落しているからではないだろうか。

部下の成長を話題にするということは、折に触れて部下の仕事ぶりから褒めるべき点を見つけようとすることでもある。究極のほめ上手をめざそう。ほめ上手は最もお金のかからない、それでいて劇的な効果がある部下育成法である。最高の事例のひとつとして吉田松陰の松下村塾がある。

「松下村塾」・・・教室も教科書も満足になく、授業料もないこの私塾が歴史を変えた。
ここでは、松陰先生が知識を教えてくれるというよりは、大半が素読。しかも野良仕事をしながら先生はときどき質問に答えたり、逆に質問を投げかけたりする程度。教育環境としては当時の平均か、それ以下であった。

松陰先生を特長づけたのは、「政局問題」や「外交問題」をときには熱く、ときには科学者のように冷静に語ったことであろう。そして、長州のみならず、国家的規模での危機感を若者にうえつけ、改革に向けた行動をせまった。

さらに、決定的に他の指導者とちがう点は「ほめる」ことの天才であった。

禁門の変において戦闘中負傷し自刃した、久坂玄瑞を評して「防長第一流の人物たり、因って亦、天下の英才たる」と最大級のほめことばを送っている。防長とは、いまの山口県全域を指すが、イメージとしては西日本全体を指すイメージに近い。
自分より10才も年下の、このとき20才前後の若者におくることばとは思えないほどの讃辞だ。

29才で生涯を閉じた高杉晋作に対しては、「識見気魄他人及ぶなく、高等の人物なり」とこれまた最大級である。

松陰先生は本人の前だけでなく、本人がいないときにもほめた。他人への手紙でもほめた。テクニックではなく、心から「防長第一流」「識見気魄他人及ぶなく」と思ったからこそそれができた。そして一回でなく、何回も何回もくりかえしほめている。

ほめることが他人を動かすのは今も昔もかわりなく、ほめ言葉の達人になることは、良き指導者と同義語かもしれない。

さあ、さっそく今からトレーニングだ。社員・奥さん・ご主人・子供に向かって真剣にほめてみよう。みえすいたお世辞は逆効果だ。ありきたりの表現でもパンチがない。「防長第一流」並のボキャブラリーを駆使できるようになろう。