(昨日のつづき)
まず、ベテラン社員の発言に注目した。それは「見積依頼を受けた段階で受注できるかどうか分かる」というものだった。
受注できそうだと思えるときはどういう時なのかを尋ねたのだ。最初は、「いやあ、何となくそう思えるだけですよ」とはぐらかそうとしていたが、こちらが刑事の尋問みたく「何となくそう思える時って、どういう時ですか?」とたたみかけた。
ベテランはしばし考え、こう言った。
「相手の切実さというか、本気さです。何とか助けてください、よろしくお願いします、というようなニュアンスで依頼されたときには大抵決まります」
「決まらないときはどんな感じ?」との問いにはこう答えた。
「切実さがありませんね。事務的な感じというべきか。〇日までにこの件を見積もってもらえますかと打診される。いかにも当て馬に利用されているように思えます」
「そんな時には、どのように対応するの?」
「こちらも事務的につくって提出するだけです」
「その後は?」
「その後は返事待ちというか、相手まかせです」
「そういう事務的な見積というのは全体の何パーセントくらい?」
「半分以上はそんな感じですね」
ほかの営業社員も肯いていた。受注することに自分の生活を賭けている人がいないのだろうか。
私がベテランに「当て馬」の定義を尋ねたところ、「発注するつもりもないのに見積もりだけ提出させて相見積もりの相手をさせること」と答えた。定義はそれで正しい。
だが、本当に「当て馬」なんてことがあるだろうか?発注するつもりがゼロの会社に見積もりだけさせるなんてことはあり得ないはずだ。
もしそれが本当にあるのなら、こちらは見積もりから降りれば良いし、金輪際、取り引きを停止すればよいだけではないか。
結果的に毎回失注しているということは相手の責任ではなく、こちらの責任と捉えよう。こちらの姿勢と見積書の中味の問題ではないか。
「こうした現状に風穴をあけるためには何をしたら良いですか?」と全員に尋ねた。
すると、職人肌タイプの男性社員が手をあげた。
「見積を提出したらすぐに電話して、受注したいむねを相手に伝えてはどうでしょうか?」
「大切なことですね」と私がいうと、新人女性も挙手した。
「見積を出したあとでは遅いと思います。出す前に電話をして状況を詳しくお聞きして見積り作成の熱意を伝えることが大事だと思います」
「その通りですね」と私。
整理するとこうなる。
今までは事務的に見積依頼を受け、こちらも事務的に見積書を提出し、その後はそのまま放置していた。
だが、これからは、見積依頼を受けたらすぐに相手に電話かメールして、状況の確認をする。同時に「今回の落札ポイントは何でしょうか」と聞くことにする。
落札するポイントがどこにあるのか。価格オンリーなのか、価格+品質・納期のコスパなのか、万全のアフターフォローなのか。そして相見積の相手は何件あるか。相見積の相手はどこか。当社が本件で落札できるためにはどんな見積にすべきか。そうした核心に迫ることを相手に尋ねるのである。
「そんなことを教えてくれますかね」と首をかしげるベテラン。
相手によっては最初は警戒して教えてくれないかもしれない。相手との関係次第だろう。ただ、聞かない限り決して教えてくれないということと、仮に教えてくれなかったにしても、相手にこちらの熱意が伝わる。見積の内容があまり変わらないときには、熱意のある方が受注するものだ。コストゼロの魔法の戦略である。
この方法は失注したあとにも使える。
見積提出後、〇日以内に必ず相手に電話をする。
「その後、いかがですか?」「見積の内容についてご不明な点はありませんでした?」「いつごろ決定される予定ですか?」
仮に失注したことを伝えられても次につながるようポイントを稼ぐ。
「今回はどちらの会社が受注されましたか?」「それは幾らの受注金額でしたか?」「その会社が受注された最大要因は何でしょうか?」「今後、当社が受注できるためには何が必要でしょうか」
そうした情報を得ることによって、単なる失注ではなく次につなげることができる。
この会社では、こうした議論の内容を整理し「見積力倍増マニュアル」作成に着手した。9月で終わる今期中に完成させると意気込んでいる。
★昨日号「ある工事会社の見積り負け対策」
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