ある専門工事企業の会議に招かれた。この会社では前年実績割れを起こしているという。業界全体では前年比で3%成長しているので、地盤沈下が起きていると社長(70歳)は危機感をもたれたようだ。
「どんなことが起きてますか?気になることは何ですか?」と問いかけたところ、専務(社長の長男、40歳)が発言した。
「見積り負けが目立つようになってきました。うちのビジネスは BtoBでして、大手ビルメン企業やマンション管理会社がうちのお客様です。
以前は見積書を提出したら半分ほどが受注につながっていたのですが、最近では四分の一程度しか受注になりません」という。
見積書の提出件数そのものは減っていないそうで、要するに成約率の低下が最大の問題であるという。
「そうかもしれませんね」と私がいうと、専務が「他になにか問題があるのですか?」という顔をされた。
そもそも、相見積もり競争という土俵で勝負をするのをやめることも大切ではありませんか、と私は申しあげた。どのようにすれば見積競争せずに受注できるかを考える必要があるわけだが、それは今日のテーマではなさそうだ。差し迫って必要なテーマは「相見積もりでいかに勝つか」にした。
なぜ見積りに負けると思いますか?営業の皆さんが思っていること、感じていることは何ですか?
すると、一人の若い社員が発言の口火を切った。
「うちの単価設定は高いので、競合すると大抵負けるのです」と言いにくそうに言った。ふだんの社内会議では決して言えないことを言った、という顔をしている。
隣にいた古参社員風の営業マンはこう言った。
「そもそも見積依頼が来た段階で勝ち負けはおおよそ予測がつく。当て馬に使われているだけなのか、本当に困ってうちに相談しておられるのかは電話やメールの段階でわかりますよ」
「なるほど」と私が言う。
今度は新人営業女性が発言した。「忙しくなりますと、作業として見積書をつくって提出するだけ、ということが多くなり、受注したいという熱意が相手に伝わっていないのかもしれません」と言った。
職人肌タイプの営業社員はこう言った。「見積書を提出したあとは、ひたすら連絡待ちするだけです。こちらから電話やメールで状況を確認することはほとんどありません。もちろん失注したという連絡を受けることもありません」と言った。
社長にも発言を求めたところ、こんな発言をされた。
・粗利益率目標を重視するあまり、社員にそれを押しつけ過ぎていた可能性がある。営業社員自身が「うちは高いので、たいてい負ける」と思っているとしたら、
負けて当然。私のミスリードだったかもしれない。「当社なら多少高くても勝てる、という根拠のない自信は取りはらうべきかもしれない」
・以前には、指名工事(単独受注)が年に何件かあったが、最近はそれが皆無になっている。当社のことをよく理解し、応援してくれるようなスタンスの会社や担
当者が転勤や退職などで減ってきた証拠だろう。
・私(社長)が若いころ現場を毎日まわって営業活動し信頼関係を構築していた当時の取り組みを、今後は若い専務(長男)たちに任せていかねばならない。
問題がかなりあぶりだされてきた。その中から重要そうなひとつかふたつにしぼり込み、解決策や改善策を議論することにしよう。
<明日につづく>