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経営者は役者

Rewrite:2014年3月27日(木)

ある日、スターバックスで本を読んでいたら隣のテーブルの四人席が埋まったようで、突然にぎやかな話し声が聞こえてきた。話しているのはカラフルなスーツ姿の女性たちで、経営者かコンサルタントの先生のようだ。

「ねえねえ、最近アベさんの顔がどんどん悪くなってるのに気づいてる?最初のころはかっこよくて映画スターみたいだったのにねえ」「そうよね」

アベさんって阿部寛だろうか。でも、映画スターみたいだった、ということは阿部寛ではあるまい。彼は今も映画スターだからだ。当然、阿部サダヲでもないはずだし、阿部慎之助のことでもあるまい。ましてや、AKB の阿部マリアでもないだろう。となると、残るは安倍晋三しかあるまい。案の定、次のやりとりで政治家の話題であることが判明した。

「そうよね、一気に老けちゃった感じ。オバマさんだって最近はオーラが落ちちゃったよね」
「メドヴェージェフなんて最初から悪人顔だしさ」
「何か、政治家ってみんな役者じみていて仕草が不自然なのよね。もっと自然にふるまえないのかしら」
「私は演技指導の前にまずメイクが必要だと思うわよ。目の周りのクマをきれいにとって、目ヂカラをつけなきゃ」
「そうそう、あと自然な笑顔の練習。それに歯を真っ白にすることね」
「となると、やっぱり小泉進次郎よねえ」
「そうそう、あのレベルの政治家があと 10人もいたら、国会中継の視聴率がグーンと上がるわ」
「それっていいことなのかな?」
「悪くはないわ、ハハハ」
「ハハハ」
「ホホホ」

彼女たちの声の大きさに読書をあきらめ、考え事をすることにした。たしか、政治家と映画俳優は同じである、というようなことを有名な文豪が言っていたはずだが、誰だったろうか?という考え事である。日本の文豪となると、そもそもそんなにいない。数人から 10人程度であろう。しかも私が読んだことがある文豪となると、夏目漱石か森鴎外か芥川龍之介か谷崎潤一郎か三島由紀夫ぐらいに絞られるはずだ。この中の誰がそんな警句を言ったのか、ということだ。

どうにも気になったので、スターバックスを出てオフィスにもどった。
すぐにネットで検索したり、書棚の本を丹念にしらべてみたが、それらしきものが見つからない。ところが、ひと月ほど経った昨日、本棚を整理していたらそれらしき本が偶然目に飛びこんできた。

芥川龍之介『侏儒の言葉・西方の人』という本である。
それには芥川のこんな警句が載っていた。ここに「政治家イコール俳優」説の由来がある。

・・・
古来政治的天才とは民衆の意志を彼自身の意志とするもののように思われていた。が、これは正反対であろう。寧ろ(むしろ)政治的天才とは彼自身の意志を民衆の意志とするもののことを云うのである。少なくとも民衆の意志であるかのように信ぜしめるものを云うのである。この故に政治的天才とは俳優的天才を伴うものらしい。ナポレオンは荘厳と滑稽との差は僅かに一歩である」と云った。この言葉は帝王の言葉と云うよりも名優の言葉にふさわしそうである。
・・・

政治家のところを経営者と置きかえ、民衆のところを社員や顧客と置きかえても立派に文脈が成立することも確認してみよう。

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