連休前のある夕方、W社長から携帯コールがあった。「武沢さん、大変だ。メイン銀行から突然『経営改善計書画』を提出するように言われた。うちとしては支払いを一度も滞らせたことがないのになぜだろう?」
「理由は簡単ですよ。それより社長、書式はありますか?それと、提出期限は?」
銀行が企業に融資している債権は、基本的につぎの四種類に分けられる。
1.正常債権 (91.7%)
2.要管理債権 (1.9%)
3.危険債権 (5.0%)
4.破産更生債権およびそれに準ずる債権(1.4%)
ちなみにカッコ内の数字は、四国銀行がWEBで公開しているデータである。
http://www.shikokubank.co.jp/profile/disclosure/200204.pdf
今回のW社の場合、きっちりと毎月の元利返済を守ってきた。そうした実績では、企業と銀行が信頼関係に結ばれているといえる。従って、少なくとも「危険債権」扱いでないことは確かだ。にもかかわらず『経営改善計画書』の提出要請を受けるということは、過去の業績推移などからみて「要管理」または、「正常」の中でも下の方に入る部類と格付けされたに違いない。
こうしたことはなぜ起きるか。
それは、銀行と金融庁との関係、あるいは銀行自体の経営健全化努力によるものである。
99年7月に定められた「金融検査マニュアル」は金融庁、地方財務局が銀行や信用金庫に対して検査をおこなう際、検査官が用いる手引書として制定したもの。最近になって中小企業用の別冊も加わった。
http://www.fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/kensa01.html
つまり金融機関は、融資先企業に対して、現実をきびしく直視した計画経営を営んでいるかどうかを峻別しようとしているのだ。従って、以前とは異なる融資先格付けを持とうとしているのである。
過去の格付けは、支払実績と返済の見通し、資産と負債のバランス、経営者個人の信用力や人間性などが評価された。今後はそうしたものだけでなく、企業として生き残り、勝ち抜くためのプランが存在するか否かのほうが重要性を帯びてくるのである。
実現可能性の高い『経営改善計画』をもっている企業は、たとえ業績に逆風が吹いていても「正常」もしくは「要管理」でとどまる。いやそれだけではない。たとえ今、債務超過企業であったとしても『経営改善計画』が評価されれば、融資が続行されるチャンスがある。
かたや、『経営改善計画』が存在しない、あるいは存在はしても実現可能性が乏しいと判断された場合は、融資格付けが格下げになる。それは、融資の続行が困難になるだけでなく、銀行自体も「貸し倒れ引当金」を積み増しすることになり、自らの首を絞めざるをえない、お互いの不幸となるのだ。
企業と銀行は、過去の取引実績や社長の人間力だけをあてにして、未来のこともウヤムヤにしようという関係では立ちゆかなくなっているのだ。
銀行から計画書の提出を求められても決して落ち込むことはない。銀行に書式を要求しよう。万一、もっていなければ、経営支援団体の窓口で相談してみよう。計画書作成支援を積極的に行っているところもある。また、サイトで検索すれば、いくつかの書式がダウンロードできる。
例としてここだ。 http://rose.zero.ad.jp/gidai0/bank.htm
また、年間購読専門雑誌「経営者会報」2003/4月号では、5ページにわたる特集が組まれているので、それを求めるのも良い。
http://www.njh.co.jp/njs/keikai.htm
大切なことは数字ではない。作文でもない。
経営者自身が未来に対して明るい希望を迫力もって語れるかどうかが勝負だ。社員や外部スタッフに計画作成を依頼することがあっても、その内容は経営者自身が付き添いスタッフなしで語れる必要があるのだ。
冒頭のドラッカーの言葉を思い出そう。
「エコノミストは数字を見る。私は人を見る。人と社会、その価値観の動きを観察する」
人とは、他ならぬあなたのことだ。