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続・玉海力グループの経営計画発表会より

●玉海力グループの経営計画発表会は 10月1日、月曜日の午後から東京ウエスティンホテルで行われた。会場には正社員全員とパートアルバイトの一部、それに来賓を含めて 30名ほどの規模で行われた。
女性スタッフの水谷さんが開会宣言を行い、次いで河邉幸夫社長が約1時間、経営方針の発表を行った。
手帳に印刷された経営計画書を読み上げ、要所は言葉で補足する。さらに重要なポイントでは、プロジェクターを使ってより詳しく解説する。入念なご準備があったのだろう、一時間があっという間に過ぎた。

●次に、5人の支店長による支店方針発表が行われた。
トップバッターは広尾本店の田島店長。田島さんは 30代で、10年前まで相撲取りだった。実はこの発表会の二日前までずっと丁髷(ちょんまげ)を結って仕事をしてきた。元相撲取りが店長をやっていることをウリにしてきたのだが、いつまでそれをウリにするのは止めようと今回、バッサリ切った。
旗艦店の店長としての覚悟、それは 18年間のちょんまげ生活との訣別だったのだ。

●次に銀座店の杉本店長の発表だ。銀座の一等地、歌舞伎座の真ん前という好立地に出店し丸一年が経過した。この場所でどこまで通用するかという不安と、どこまで勝負できるかいう大きな期待。
それらがあいまっての出店だった。この一年の成果や学びは非常に大きく、今期はより大きな目標に向かってお店を伸ばしていける、と決意を述べた。

●武蔵小山店の河邉ひろこ店長は河邉社長の妹さん。ふだんは元気に手際よくお店を運営しているのだが、さすがにこうした緊張感あふれる会場は様子が違う。何度も言葉がつまり、予定の半分も話せなかったかもしれないが、聞く者に真剣さが充分つたわってきた。

●海外支店からの二人の発表も印象的だった。

チンタオ店(FC 店)の小林店長はもともと、広尾本店で働いていた。
信頼できる中国人スタッフとの出会いもあり、彼と二人三脚でチンタオに店を出す決心をした。役所との折衝、守られない約束、そのつど要求される賄賂、もし小林さんが一人だったら心が折れていたと述懐する。河邉社長のバックアップと、ねばり強く役所交渉や中国人スタッフの雇用・訓練をしてくれたシィさん(41才)のおかげだという。

●チンタオに店を出したのは平成 18年だった。5年を経過した昨年には全面改装をした。現地で飲食店が全面改装するのはめずらしい。
普通、改装するときには商売を変えてしまうことが多いからだ。だが、改装効果は絶大で、昨年の売上は前年比で 1.5倍になった。

●チンタオには、玉海力が出店する以前から和食店があった。
しかし、専門料理店の出店は玉海力がパイオニアで、その成功をみて多くの専門店が出店するようになった。

だが、先月の尖閣デモでは、小林店長にとって人生で味わったことがない恐怖を感じた。営業できない日が続いた。幸い店に直接の被害はなかったし、今はようやく平穏がもどった。顧客の 3割から 5割を占める中国人客も戻りつつあるという。
現地で知り合った日本人女性と結婚し、小林店長はチンタオにオール・イン(すべてを賭ける)する構えである。

●同じく FC の上海店は、中国人女性の張麗(ちょう れい)さんが店長。日本の玉海力で修行を積んで上海に店を出した。とにかくハートが熱い張さんは、お客さんが「美味しかったよ」「また来るね」と言ってくれると、うれしくて涙がでる。
そんな張さんが上海の虹橋近くに店を出したのは昨年の 6月18日だった。アクシデントを見込んで入念なスケジュールを組んだのに、店にガスが通ったのは開店前日のことだった。それも、賄賂が効いて前日に通ったわけで、それがなければどうなっていたか分からない。

●いずれにしても、前日のガス開通では料理のトレーニングができない。ほとんどの調理スタッフが玉海力の料理の作り方をしらないまま開店を迎えることになった。オペレーションが不安なので開店日の告知は控えめにしておいた。お客様が大挙してやってこられても対応できないからだ。
だが、どこかで聞きつけたお客が次々にやってくる。88席の店内は、あっという間に 84人のお客で埋まった。そんなお客から次々にオーダーが舞い込む。

●嬉しい悲鳴を通りこし、厨房はパニックになった。
注文後、料理が出てくるのに一時間待ちがザラになった。それでもお客さんは我慢してくれている。大声で怒鳴る人はひとりもいない。客席と厨房を行ったりきたりしながら、ハラハラ・ドキドキ途方にくれる張さん。「また出直すよ」と帰られる客も出はじめた。そんなお客も顔は笑ってくれている。
「名刺をちょうだい」と再来店も約束してくれる。なんて優しいのだろう、と張さんは店のかげで泣いた。何時間がすぎて、すべての客席に料理が出そろった。お客様がニコニコと料理に舌鼓を打っておられる姿をみて、安堵でふたたび涙が止まらなくなった。

結局、その月は大成功だった。翌 7月、8月、9月、そして秋から冬。
毎月売上はうなぎのぼりに増えていった。

●「さて、いつ 2号店を出そうかしら」と思っていたら今年春になって売上が急落した。販促活動をしても客足が伸びない。店内が閑散とする日が続いた。夏は売上がへこむということを忘れていたわけではないが、始めて経験する落ち込みに動揺し、河邉社長に相談した。
日本の店の夏場対策のすべてを伝授されて、独自のアレンジも加えて手を打ち続けた。客足を取りもどし、一周年のイベントも終わってさあ、2年目の今期もがんばるぞ、と思っていたら尖閣デモが起きた。

●暴徒と化した中国人デモ隊の映像が日本で流されるたびに張さんは悲しくなった。せめてこの会議室にいる玉海力のスタッフには分かってほしいとこう訴える張さん。

「上海に住んでいる中国人ですから私は本当のことが分かります。あのデモの映像は上海の、そして中国のすべてではありません。ほんの一部です。ごく一部です。大多数の中国人は日本と日本人を愛しています。本当です、信じて下さい!」

●発表会のあとの懇親会は宴会用ホールで行われた。豪華なご馳走やお酒が並ぶ。
河邉社長に「素晴らしい発表会でしたね。会場の雰囲気も良いし」と声をかけた。すると、こんな答えが返ってきた。

・・・
経営計画発表会という名称での会議はこの 2~3年前からのことですが、実は10年ほど前からこうした会合は開催してきました。その当時からこのウエスティンさんでお世話になっています。正直いって、コストはかかります。しかし、福利厚生という面もあるし、一流の料理・一流のサービスというものをスタッフに体験してもらって、それを明日からの仕事に活かしてほしいという気持ちもあります。どれだけの費用対効果があるか分かりませんが、信じてやっています。
・・・

●経営計画書は一流ホテルの赤絨毯の部屋で金屏風をバックに行うべし、と説いた一倉定氏。威厳に満ちた発表会であるべきだという考えだろう。
そんなムダなお金はかけずに、社内の会議室か近所の公民館で充分だという反対意見もあるに違いない。

私は「かけられるだけかけた方が良い」という考えである。経費というより、投資という側面もあるので、酉の市の熊手みたく、年々わずかでも良いからアップさせていけばよい。

●経営計画書がどういったシチュエーションで発表され、懇親会にどれだけのご馳走がならんだかということは、社員は敏感に感じ取っているものだ。福利厚生と研修教育だと考えて、年に一度のこの会にある程度の予算を組んでみようではないか。

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【編集後記】

◆今から東京を出発し、名古屋へ。そして明日から一泊で大阪へ。