●ある会社の「納涼祭り」に呼ばれた。東京にあるこの会社では毎年、梅雨があけたころに全社員（約50名）がそろってビアガーデンで気勢を上げる。ほとんどの社員と面識がない私だが、出席することになった。
●大いに盛り上がって何度めかの乾杯が済んだとき、私の隣にひとりの若手幹部がやってきた。
「先生、カンパイをお願いします」
「いいよ。乾杯はいいけど、あなたは誰だっけ？それと、なにに乾杯しようか？」
「申し遅れました。私は営業課長の水谷と申します。こうみえて営業部のナンバー 2です、エヘン。できましたら今期目標の達成を祈願してカンパイをお願いします」
「OK。では達成を誓って、カンパ～イ」
「フー、うまい。先生、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか？」
●ろれつが回っていないが、水谷課長の質問はこうだった。
「うちの業績はこの数年間ずっと増収増益で調子がいい。同業者からみればばうらやましがられるほど好調なのに、うちの社長は理想が高いから全然満足していない。来期はさらに利益倍増を宣言している。正直言って、どこまでいけば社長に満足していただけるのか疑問に感じることがあるのですが、社長が満足するときというのはどういう時でしょうか」
●若手らしい質問だ。私はこう回答した。
会社というのは社長が満足した瞬間に進歩が止まる。
だから、社長は決して満足なんかしないよ。だからこそ社長なんだ。
賞賛やねぎらいはしてくれるだろうが、「これで充分だ。あとは現状を維持できればいい」と社長が心の片隅で思ったときが会社のピークで、あとは必ず下り坂になる。あなたたちは知らないだろうが、いったん下り坂に入ると、ふたたび上り坂に転じるのは並大抵の苦労ではないよ。何年も何十年もかかる。下手をしたら一度も浮上しなくなる。
おたくの社長はそれをよくご存知だから満足の片鱗もみせないのだろうね。
●「そういうものですか。では、もうひとつ伺っていいですか？」
「その前に赤ワインを一杯もらえるかな」
（赤ワインでもう一度乾杯し）
「先生、利益が２倍になるとはどういう意味ですか？利益が２倍になれば我々の給料もすぐに２倍にしてもらえるのなら手応えが実感できるのですが、そうではない。利益２倍の意味とか価値は何なのでしょう？」
「そんなのは私ではなく、社長に直接聞きなさいよ」
「実はお聞きしたんです、ついさっき。そうしたら、『まずやってみろ、意味はその時わかる』と言われました。私はそれでも納得しますが、部下には説明できない。頭でっかちな部下も多いので、そんな彼らをその気にさせるにはロジックが必要なんです」
「う～ん、利益倍増の意味をロジカルに語れ、ということか。面白いね。君はどう思うんだね」
「私は率直にもうしあげて、まったく分かりません」
「まったく分からないの」
「はい、ですからこうしてお尋ねしているのです」
●今日はここまで。あなたは水谷課長の質問になんと答えるだろうか。
私がこの時トイレに立ち、戻ってきて水谷課長に話した内容は明日の号でお話ししたい。
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【編集後記】
◆今日は大阪で本気講座です。第五講ということでいよいよ経営計画書の完成です。
