●ある日、群馬の温泉で露天風呂に入っていた。真っ昼間のことである。はるか上空のうろこ雲を見あげながら、かけ流しの源泉に入る。
日差しは強いがヒンヤリと秋の気配を感じて清々しかった。半身浴しながら周囲を見わたすと、ひとりの作業員が庭そうじに励んでいるのが目に入った。
●ずっと下を向いたまま黙々と作業をしているのだが、その様子が一風変わっている。庭石や敷石の上に落ちた落ち葉を丹念に取りのぞき、きれいになったら雑草取りを始める。5分もしないうちにふたたび落ち葉が目立ってくるので、そちらを取りのぞき、また雑草を除去。
それを延々とくり返しているのだ。
このままでは永遠に庭掃除が終わりそうもないが、一向に気にしない様子でゆったりと作業しておられた。
●この作業者の目的は何なのだろう。果たして葉っぱが一枚も落ちていない状態を目指そうというのか。彼に真意を問うてみたかった。
同時に、千利休のこんなエピソードを教えてあげたかった。
・・・
ある日、利休は息子の紹安（じょうあん）が露地に水をまくのを見ていた。息子が掃除を終えたとき利休は、「まだきれいになっていない」と、やり直しを命じた。いやいやながらも紹安は一時間もかけてふたたび掃除を行い、父に言った。
「お父さん、もうこれ以上何もすることがありません。敷石は三度も洗ったし、石灯籠も庭樹にも充分水を打ったし、苔（こけ）は生き生きした緑色に輝いています。小枝一本、木の葉一枚落ちていません」
すると利休は、「ばか者」と息子を叱りとばした。
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●利休の心はいかに？
賢明な読者であるあなたはこれをどう読むか。お考えいただきたいが、ここは先を急ぐことにしよう。
・・・
「ばか者」と叱ったあと、利休は庭に下りて一本の樹をゆさぶって庭いちめんに金色と深紅の葉、秋の錦の小切れをまき散らした。利休が求めたものは清潔だけではなく、美と自然でもあった。
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（『茶の本』岡倉天心、より）
●清潔で美しい住まいなら、新築住宅のモデルルームが最高だ。
だが、そこで人が生活し、仕事をする。清潔さと美しさを保持しながら自然であることも求められる。さらに、歴史の重みも増し加わる。
●建物や庭の話をしているのだが、考えてみたら人間そのものについてもほぼ同様のことが言えそうだ。
清潔さ、美しさ、自然さ、それに歴史の重みが求められるのは人も同じなのである。
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【編集後記】
◆「がんばれ！社長」の夏休みは8月13日（月）～15日（水）までです。
今週一杯は通常通り営業します。
