(この話は実話をモチーフにしたフィクションです)
六本木の交差点でぜんざい専門店を開業することにした。十勝、丹波、備中など日本を代表する小豆を各地から集め、餅や白玉の素材や製法にもこだわった本格的ぜんざいである。30種類以上の中から選んで5種類食べられて1,980円。西尾産の抹茶に羅臼の塩昆布、和歌山の梅干しが付く。六本木ならきっと成功するはずだと社長は意気込んだ。
だが、まったく成績が振るわず、1年弱で店をたたむ羽目になった。当初つくった販売計画に対して70%程度の売上げで推移し、経費だけは予定の2割増し。ずっと赤字が続いてしまったのだ。
この例の場合、不振の原因はふたつ考えられる。ひとつは、アイデアそのものが良くなかったこと。六本木でぜんざい店を開いても計画を満たすだけの市場規模がそこになかったならば、最初からアイデア倒れだったということになる。
もうひとつの理由は、実行段階で問題があった場合。ぜんざいの味がお客にあわなかったのか、店のつくりの問題か、価格設定か、オペレーションの混乱か、集客力の不足か、それともスタッフの接客サービスの不評なのか・・・。これらはいずれも実行段階の問題である。
アイデアの問題か実行段階の問題か。別の表現をするならば、戦略の問題か戦術の問題か、ということだ。
・戦略のミスは戦術では補えない
・戦術のミスは戦略で補うことができる
といわれるが、おそらくその通りなのである。
これだけのエピソードを読んだあなたは、このぜんざいビジネスの社長のことをどう思うだろうか?「六本木でぜんざいだなんてバカだな」と思うか、「よく思いきって挑戦をした」と感心するか。
私はそのどちらでもない理由で感心している。「よく思いきって1年弱で撤退したな」と思っている。正確には6カ月で撤退を決めている。家賃交渉の問題もあって1年弱まで長びいたが、この社長は最初から撤退基準を決めていたのだ。
数字目標は三種類あり、それぞれ目的別に使い分ける。
DG(ドリームゴール)・・・これだけやれたら最高という夢の目標
RG(リアルゴール)・・・販売計画や経営計画に採用される現実目標
MG(ミニマムゴール)・・・この数字を下回ったらやっている意味がない最低目標
このぜんざい社長は「6カ月経った時点の月次損益が MG を下回っていたら翌月1日に撤退手続きに入る」と決めていた。なので、予定通りそうした。大胆なチャレンジを可能にするのは撤退基準というセーフティネットがあるおかげともいえる。