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能力主義、成果主義、業績主義

Rewrite:2014年3月26日(水)

「武沢さん、うちは完全な能力主義でやってますから気が楽なんです。固定給は低くして、あとはすべて歩合給にしたのでね。新人研修以外の教育もなくしました」と、ある経営者が私に語られた。

何か変だと思われないだろうか? それが本当に能力主義なのだろうか。

奥田 碩(おくだ ひろし)氏がトヨタ自動車の会長時代に、「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調してきていた。同時に、「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」と矛盾したような発言もされているが、雇用の維持と能力主義とは同居できるものであり、決して矛盾していない。

言葉が誤用されていることがあるので確認したい。それは、能力主義=成果主義=業績主義ではないということだ。
能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものである。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給される。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものだ。
一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。従って能力の高低は評価せず、なし遂げた成果の中から分け前を発生させるものである。そうしてみると、戦後の日本型経営とは、もともと「能力主義」だったことがわかる。多くの会社が今でも、成果を評価するのではなく能力を評価してきている。

そして今、日本の企業の多くは、大急ぎで「成果主義」に移行しようとしているのだ。中小企業も例外ではない。
成果主義を進める上で必要なものは何か。それは次の三つである。

1.個人ごと、チームごとに業績目標が数値化されていること。当然、実績も個人ごとに分かるようになっていること。

2.業績以外の面の貢献目標が明確であること。
例えば、○○プロジェクトを上半期中に仕上げるとか、▲▲新事業の企画を3ヶ月以内に完成させるなどの目標である。

3.管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する。
例えば、今期中に新しくマネージャーを1名養成すること、などである。

成果主義型人事をうまく機能させるには、上記3つの目標を忘れてはならない。

ちなみに、上記1だけを機能させようとした人事制度のことを「業績主義」と呼ぶ。冒頭で紹介した経営者の発言は、能力主義を業績主義とはき違えたことによる。あえて業績主義が悪いとは思わないが、目的をはき違えた人事制度にしてはならない。いわんや成果主義の導入が人材育成の放棄につながってはならないのだ。