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続・ウオダイの挑戦

●「帰りに夕食のおかずを買ってきて」

私が駅にいるのを知った家内からメールが届いた。どんなおかずが良いのかは書いてない。とりあえずデパートの食品売り場に行ってみることにした。
珍味コーナーでイワシの煮染めが美味そうだったので試食したら実に良い。酒に合いそうだ。
「これも人気ですよ」と、イカ焼きとちりめん山椒もすすめられた。
「そうなの?どれどれ」と試食。たしかにどれも美味いのでパックにいれてもらい、珍味3品をレジに持って行ったら3,000円だった。
珍味だけで 3,000円は高くついたなと思った。デパートなんだからしようがないが、割高感をおぼえると次回から足が遠のく。果たしてこの珍味、「ウオダイ」なら幾らなんだろうと思った。

<昨日のつづき>

●「ふつうの食品スーパーでは勝てない。思いきったディスカウント路線に転向するしかない。それでダメなときは店をたたむしかない」ウオダイの三代目・加藤千博社長(58)は激安路線に転向する腹を固めた。

●2009年 1月30日(金)、「生まれ変わる為に損をしたい」と銘打ったチラシを投入。うまれかわったウオダイの開店セールが始まった。

卸売り市場で丹念に仕入れてきた激安品やバッタ屋といわれる安売り問屋から集めた魅力的な商品で売り場を埋め尽くした。
豆腐1丁 38円、うどん一玉 18円、・・・ウオダイで売られる生鮮食品はすべて競合店の 8掛け以下に設定した。

●さらにオープンセールの目玉には 1円均一、10円均一、100円均一などの特売コーナーをつくってお客を驚かせた。また、ボリューム満点の「250円弁当」も売り場に並べた。
私たちが頭で想像している激安の範ちゅうを大幅に超えた、「超・激安スーパー・ウオダイ」の誕生だったのだ。

●だが、加藤社長や社員の意気込みとは裏腹に、お客の反応は意外にも鈍かった。「ウオダイさんがまたセールをやっている」という程度の反応でしかない。ドッと押し寄せてこないのだ。

新規開店ではなく、改装オープンだからやむを得ないのかもしれない。
コンサルタントの励ましを受けながらウオダイのスタッフは粘り強く改善をつづけた。お客は殺到しないが、店内のお客の表情はあきらかにビックリしている。安さで軽い興奮状態のお客もいる。
「大丈夫だ、この路線は間違っていない」と加藤社長は手応えを感じていた。

●1週間、2週間、3週間・・・、ついに口コミが爆発した。客数と売上が急上昇を始めたのだ。
いままで店内がこれだけ混雑するのを見たことがない。午前10時の開店と同時にお客がなだれこむ。毎日が特売日のようになった。

「こんだけ買ってこの値段、安っすいなぁ。と思ってもらいたい。1個 100円儲けるのではなく、1円の儲けを 100個作ろうという発想に切り替えた」と加藤社長。
そのためには競合店のようにひととおりの品揃えをしようとは思わない。品揃えしないのだ。冬には冬の果物があるが、それを一通り揃えようとすれば、おのずと商品は広く浅くなる。その結果、安く仕入れることができない。
だが、果物コーナーで売っているのは「みかん」だけに絞ったら大量に仕入れることができ、安く売れる。圧倒的な値頃感とボリューム感で勝負する。狭い売り場で勝つのはこうしたランチェスター・弱者の戦略を応用するしかない。近隣でもっともみかんを多く売る店がウオダイということになる。そうしたアイテムを順次、「いちご」「しいたけ」「おでんの具」「すき焼き用の肉」という具合に広げていく。
その結果、市場のようなお店になって飽きがこない。

●半年後、ウオダイの売上は前年比2.5倍になっていた。

しばらくして、驚きの電話が入った。

「あなた、テレビ東京さんから電話ですよ」と奥様がつないでくれた。
「テレビ東京?また息子が通販番組で何か買ったのかな?」と電話に出たら、取材依頼だった。
『ガイアの夜明け』でウオダイの挑戦を扱いたいという。人目につく華々しいことは苦手な加藤社長だが、これも悪い話ではないと思い承諾した。

●2010年 1月19日、シリーズ「デフレと闘う! 第1弾スーパー特売品の攻防」という番組でウオダイが出た。その反響たるやすさまじく、お客が更におしよせた。開店前から長蛇の列ができ、近くの駐車場から路上にいたるまでウオダイのお客の車で埋め尽くされた。かなり遠くから安くて美味い肉や魚を買いにこられる人もいる。

★そのときのガイアの夜明け
→ http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber/preview100119.html

●ウオダイの業績は 見事に V 字回復した。2011年は成長率こそ鈍化したが、高水準をキープした。さらに今年2012年は、ふた桁成長を目指して社員一同が結束している。

●昨年の7月、ウオダイの加藤社長は武沢にこう話しかけた。

「武沢さん、うちも経営計画書というものを作ってみたいんだが、手伝ってはもらえないだろうか?」

その翌月末には経営計画書が完成していた。その時は期の途中だったので店長やマネージャーなど数人の前での発表にとどめた。社員のリアクションを確認する目的でもあったからだ。
作りたての経営理念や経営方針を真剣に聞いてくれる幹部の姿に感動した。その中に二人の息子がいた。きっとこの中の誰かが四代目になるのだろう。

●「次は決算期に発表会をやりたい。その時には社員(55名)全員の前でやる」と決めた。
その、「第59期経営計画発表会」が一昨日、名古屋市内で行われた、私も列席した。

<明日につづく>

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【編集後記】

◆「ウオダイの挑戦」書き始めの予想に反して3回にもなってしまいました。
加藤社長から「我が事ながら読んでいて涙が出た」とメールを頂戴しています。