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神様の女房

●この秋、ものすごく楽しみにしているテレビ番組がある。10月1日から三週連続土曜日に放映されるNHKドラマスペシャル『神様の女房』である。

「ゲゲゲ」の次は「神様」なのだ。

“経営の神様”とよばれる松下幸之助氏の奥様(松下むめの氏)の物語。

●原作は今月ダイヤモンド社から発売になったばかりの高橋誠之助著、『神様の女房』(ダイヤモンド社)。

ドラマの脚本はジェームス三木氏、出演は「むめの」役に常盤貴子、「幸之助」役に筒井道隆、他に松本利夫(EXILE)、秋野暢子、石倉三郎、野際陽子、津川雅彦などと楽しみな顔ぶれになっている。

●原作者の高橋氏は、1940年京都生まれ。大学卒業と同時に松下電器産業(現・パナソニッック)に入社し、7年たった29才のある日、突然、幸之助に呼ばれてこう言われた。

「私は忙しい。松下家の家長として十分なことができない。それをきみにやってほしいんや。よろしく頼む」

それ以来20年以上にわたって松下家の執事となり、幸之助とむめのの臨終にも立ち会ってきた。

●そんな作者にしか書けないエピソードや会話が満載された『神様の女房』。これを読むと、全然知らなかった人間・松下幸之助の生々しい姿が浮かび上がってくる。

彼は神様なんかじゃない、どこにでもいる人間くさい中小企業のおやじだ、と思える。だが、それでいて思わずうなってしまう場面が随所に表れる。

●特に、冒頭のプロローグで(たった5ページなのに)すでに泣きそうになる。松下幸之助ファンだから感動するのではなく、ファンでなくとも高橋誠之助氏の筆力によって泣かされるというべきか。実に名文。
ぜひとも無防備でお読みいただきたいのでここでは詳しく書かないが、『神様の女房』として、これほどオープニングにふさわしい場面はないだろう。

●会社が大きくなっていく最中での松下幸之助はよく知られている。
だが、結婚する前後の幸之助はどうだったか。
当時、電灯会社に勤務していて収入は決して多くはない。だが、当時の若者の暮らし向きから考えれば、20才の結婚当時にはある程度の貯金ができていなければならなかった。だが、幸之助には貯金がなかった。
後の幸之助からは想像できないが、元来の幸之助は後先のことをあまり考えない性格だったという。仕事は几帳面で熱心なのだが、個人のことになると無頓着だった。遊びに誘われると断れないところもあった。結局、貯金がない幸之助は、結婚式の費用すら借金に頼らざるを得なかったという。どこかホッとする話ではないか。

●これは有名な話だが、幸之助は身体が弱い。
風邪をこじらせて10日も寝込むこともざら。おまけに兄弟を結核で亡くしており、自分もその一歩手前の病気になってしまう。日給制のサラリーマンだった幸之助が寝込んでばかりいては、家計が維持できない。そこで、サラリーマンをやめて「おしるこ屋」をやろうと決心する幸之助。

新妻・むめのに向かってこう告げた。

「あのな、おしるこ屋、してみようか。二人でおしるこ屋を開くんや。ええ考えやろ」
「何をいうてまんねん」とむめの。
「電灯会社でずっと働くのは無理やと思うんや。そやから商売をするんや」
「そんなこと急に言われたかて」
「おしるこや、おしるこ」

●もしこのとき女房が「そうね」と折れていたら『パナソニック』はない。そのかわり、世界の『松下しるこ産業』ができていたかもしれない。

<明日につづく>

★『神様の女房』
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