●俳優の高倉健(80)さんが6年ぶりの新作映画に出演する。通算205作目の作品となる。
今月クランクインし、来春には撮り終え秋に公開予定だという。この6年間、何度も出演要請は受けていたが、心が動かされる脚本に出会えなかった、と健さん。
●ウィキペディアによれば、今回の作品『あなたへ』はこんな物語らしい。
主人公は、北陸の刑務所で指導技官を務める男、倉島(高倉)。50歳を前にして、刑務所に慰問に来ていた歌手と結婚する。だが、あいにく妻は15年後に死去する。
「故郷の海に散骨してほしい」と書いた妻の手紙を発見した倉島は、釈然としない思いを胸に、遺骨を抱えて妻の故郷である九州まで1200キロの旅に出る…という物語。
●いかにも一途な健さんらしい映画になりそうだ。
ところで、役者にも二つのタイプがある。一つは「高倉健型」。
任侠映画シリーズから始まって『幸福の黄色いハンカチ』、『動乱』、『八甲田山』、『駅 STATION』、『鉄道員(ぽっぽや)』など、ほぼ一貫して骨っぽい孤独な男の役をくりかえしくりかえし演じてきた。
●もうひとつのタイプは「唐沢寿明型」とでもいうべきもの。
唐沢は、テレビドラマ「利家とまつ」で前田利家、「白い巨塔」で財前五郎、「不毛地帯」では壹岐正などシリアスな役を好演した。
その一方で、「ラヂオの時間」、「THE 有頂天ホテル」、「ザ・マジックアワー」など一連の三谷幸喜作品ではひょうきんな役柄を演じ、新たなファン層を開拓した。「ヒラメ貼り」や「介の字貼り」のコマーシャルや「ダイワマン」のCMでも人気を博している。
●健さん型がよいのか、唐沢くん型がよいのか。
もし自分の子供が役者になったとしたら、健さん型をすすめるだろう。
唐沢くん型で成功している役者はほとんどいないが、健さん型で成功している役者は枚挙にいとまがない。
次にあげる成功している役者を見ると、どちらに軍配があがるかは自明の理ではないだろうか。
渡辺謙、役所広司、佐藤浩市、阿部寛、堤真一、反町隆史、中井貴一、仲村トオル、本木雅弘、織田裕二、香川照之、松山ケンイチ、坂口憲二、渡部篤郎、伊藤英明、上川隆也、向井理、玉木宏、成宮寛貴、藤原竜也、妻夫木聡、瑛太、速水もこみち、オダギリジョー、藤木直人などなど、ほぼ例外なく確立された役柄のイメージがあり、「健さん型」に属しているようにみえるのは私だけだろうか。
●マーケティングの本『フォーカス』(副題:利益を出しつづける会社にする究極の方法)にもこんな記載がある。
・・・
ウォールストリートと同じことは、ハリウッドでも起こりうる。フォーカスする、つまり同じような役をくり返し演じている俳優が大スターになるのだ。
ジョンウェインは「究極のマッチョなカウボーイ」、マリリン・モンローは「究極のセックス・シンボル」、クリント・イーストウッドは、「究極の物静かな男」である。
要するに、ハリウッドの大スターもしっかりフォーカスを絞っているのだ。自分らしい役を演じていれば仕事内容もシンプルだし、大金を稼げる。フォーカスが彼らをトップに押し上げ、そのおかげで彼らはトップに君臨しつづけられたのだ。
(中略)
マッチョなスターが、そうでない役を演じるとどうなるか?
シュワルツェネッガーは映画「ジュニア」で妊婦を演じ、スタローンは「刑事ジョー/ママにお手上げ」で臆病な男を演じたが全くヒットしなかった。
ハリウッドにもビジネス界と同じく、わざわざフォーカスを失う方向に進みたがる性癖の持ち主がいる。演技の幅を広げたい、ファンを増やしたい、マンネリな役はやりたくない、というわけだ。こうして、メル・ギブソンは「ハムレット」に出てしまった。
(後略)
・・・
『フォーカス』の著者アル・ライズ氏はこのコーナーをこう結んでいる。
「ハリウッド・スターでも経営者でも、たったひとつの揺るぎない人格を維持しつづけるのはとても難しい。いくつかの顔があってもいいではないかと考えてしまうのも無理はない。だが、人生においてもビジネスにおいても、注意深く取捨選択し、深く研ぎすまされたフォーカス以外に成功への道はないのだ」
●焦点がぼやけてきたら思いだそう。
★『フォーカス』(アル・ライズ著、海と月社)
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