●「社員教育に力を入れたい。ついてはちょっと相談があるのでオフィスにおじゃましたいんだが・・」とH社長から電話が入った。
いままで一度も社員教育らしいことをしたことがなく、何から手をつけてよいのか分からないという。
●お目にかかって私はこう申しあげた。
「はじめてだからって特別に構えてスタートする必要はないですよ。まずは5W1Hで計画をつくりましょう」と次の質問をH社長に発した。
・「何を」 教育したいのか? 教育の項目、メニュー
教育が進んだ結果、社員にどのようになっていてほしいか?
・「なぜ」 それをやるのか? 研修教育の目的
・「いつ」 それをやるのか? 曜日と時間、一回あたりの所要時間
・「どこで」 それをやるのか?
社内か社外か、内部講師か外部講師か
・「誰が」 それをやるのか?
受講者、講師予定者
・「どのように」 それをやるのか? 形式、教材などの決定
・「どの程度」 予算を割いてそれをやるのか?
という質問に回答してゆけばよい。
●「武沢さん、我々のようになんにも知らん人間にとっては、その5W1Hに答えることすら難しいんですわ」とH社長。
さらに彼はこう続けた。
「武沢さんはもともと人材育成の仕事をしていたからこの分野の専門家でしょ。僕は学校を出てすぐに親父の家業を手伝いはじめた。そして現場たたき上げで15年で社長になった。研修教育なんて受けたことすらないし、よそさんの会社でどのように社員教育をされているのか見当もつかん。だから教えてほしいですわ」
●社員数を聞いてみたら12名の小所帯だという。そこで私が提案したのは「社長塾」の開催である。
最初は社内に教育的な雰囲気を作っていくことが先決で、そのためには、毎日でもよいし、毎週1~2回でもよいので勤務開始前の30分~45分を使っての社長塾がよいだろう。
●基本テキストを決めてそれの輪読会にすれば手軽だ。テキストの読み合わせと解説、自由討議というスタイルで定期的にテキストを変えていけばよい。
社長みずからが進行役になってもよいし、誰かにそれを任せるのもよい。
●受講のメリットをどう出すかについては、次のような考え方がある。
・なにもメリットを出さない(あくまで自主参加)
・朝食が出る(パンと飲みもの)
・スタンプがもらえる(20個集まると金券1万円相当など)
・勤務扱いにする
●この日、H社長は「スタンプカード方式(20個で一万円相当)」を選択した。
なにを教えるかについても意見調整した結果、実務の教育は仕事中でもできるが、人間力の教育は勤務外でないとしづらいことから、当面の社長塾の主眼は人間力向上におくことにした。
●どちらかというと批判的で否定的な考え方をする人が多いのでそれを変えていきたいことから、中村天風師の本の輪読会をすることに決めた。
人材育成のスタートは、こういう実行のしやすさを第一にスタートし、徐々に外部講師を使ったり、外部への派遣をしたりと発展させていこう。