※今日は中国ビジネスに関心がある方にじっくりと終わりまで読んでもらいたい内容のものです。中味はすべて実話・実名です。話の展開上、あえて敬称を略させていただきましたが、私が大変尊敬している経営者であることを前もってお知らせしておきます。
香港を活動拠点にし、まさしく中国の開放政策と経済発展をその肌でヒシヒシと感じとりながら、20年間したたかに戦い抜いてきた一人の日本人男性がいる。筒井修、60才。還暦とは思えぬ、いたずら少年の風貌をどこかに宿したままだ。氏が久々に帰国されるというので、某日、名古屋市内でブランチをともにした。
筒井はある上場企業百貨店に勤務していた。そんな彼に人生の一大転機が訪れたのは20年前の40才の時だ。そのデパートが香港進出を果たすにあたり、赴任希望者を社内公募したのだ。
すでに妻子がある筒井ではあったが、夢にみた中国・香港だ。家族の了解も取り付け、すぐに応募した。3年間の期限付き赴任の辞令が出た。「すまないなぁ」と百貨店の社長は海外赴任の労をねぎらってくれたが、筒井はただひたすら、うれしかった。
「『筒井君、大変だよ香港ってところは。』と、現地の前任者が何度も同じことを言うのですよ。それだけじゃなく、彼は辞令の期限3年ジャストで日本に戻って行ってしまった。それほど前任者にとっては合わない国だったのでしょうね。私も好きで単身乗り込んだとは言え、そんな彼の様子を見ているうちに、ちょっとだけこの先の不安を感じましたものね。」
ところが、その不安は杞憂におわる。
初日、二日、三日と時が経つにつれ、毎日が感動的に楽しく筒井の全細胞と血液が、香港とベストマッチしていることが分かる。躍動感あふれる香港ビジネスの日々がうれしくてたまらない。“自由とはこういうことなんだ!”と、筒井は内心、絶叫していた。
「前任者が在任期間中に一度も招かれたことがないという大物華僑の自宅に、私は一週間で夕食に招かれた。しかも、ほとんど中国語会話が出来ない状態で。中国の人とお話がしたい、ビジネスをしたいという、わき上がる感情があったから、言葉のハンデなど気にならなかった。今でも詳細なビジネス会話までは出来ない。その方が都合がいい。いざというときには、通訳を兼ねた専門家を横に置いておけるからね。ははは。(笑)」
筒井の今の肩書きは、太陽商事有限公司代表取締役だ。デパートの現地法人社長という肩書きを越えて、数え切れない中国人ビジネスマンと交流してきた。その豊富な人脈と情報量が、筒井を香港トレーダーに転身させ、そして成功させた。今では香港貿易発展局の公的出版物にも彼の顔写真入りコラムが掲載されている。
ずばり今回の帰国の目的は何か、を尋ねた。
「ま、定期帰国みたいなものだが、今回はちょっと長めにとってきた。すでにこの何年間かは、日本企業が中国に進出する際のコンサルティングをしてきている。おもに大企業からのご相談が多いが、私がこれから力を入れてやるべきことは、中小企業だと思っている。最近、そうした真剣な方々とお会いする機会が増え、どうしたらもっと彼らのお役に立てるだろうかを模索してきている。私の在所が名古屋というせいもあるが、『がんばれ社長!』の作者であるあなたと、そのあたりの情報交換を交わすためにも余分に帰国日数を確保した。」
それは、光栄です。中小企業に何を提供できるか、また、何が筒井社長の特色あるサービスとお考えか?
「新しいことを始めるには何かのリスクが必要だ。何も始めない、というのもリスクだから、どっちみちリスクを背負っているのが企業だ。これからの時代は、日本国内だけでモノを作り、国内だけでそれを売ろうというのには無理がある。なぜなら、情け容赦なく国外の安い製品がなだれ込み、海外の優秀な技術者や企業が日本に参入してくるからだ。また、汗水流して働くという産業分野では、これからも空洞化は止まらないとみている。」
なるほど、それで日中の企業を橋渡しをされようと言うことか。だが、そうした主旨の公的機関や民間企業それに個人は、かなりいると思うが。
「それは知っている。だが、今すでに充分満ち足りているとは思えない。なぜなら、日本にあるものを中国に売ろうというものであったり、双方でマッチングさせるところまでは行うが、そのあとは当事者同士に任せてしまったり、単なる情報サービスに過ぎなかったりで、実際に中小企業経営者が使えるサービスは少ないはずだ。」
ほお、それでどんなアイデアがおありか?
「WTO加盟後、いわゆる中国のカントリーリスク(対外融資に際しての国別危険度。国際収支、外貨準備、政治安定度などを考慮する。)はかなり低くなったと思う。だが、誰と組むが勝負を分けるという意味で、パートナーリスクは依然として高いままだということだ。相手にダマされた、という話がいかにも多いではないか。大企業ですらそうなのだから、中小企業は実に多い。」
なるほど。それで。
「まだ属人的サービスの域を出ないが、私が面白いと思った製品や技術を中国企業と組ませるところまでをまず無料でやってあげたい。日本企業の優秀な技術や製品力を武器に、中国企業と手を組むことでどのようなビジネスモデルが描けるかをご提案する。その際のパートナー候補企業を複数ご用意しよう。さらに、日本企業にとって、代金の回収や製品の納期管理、品質確保と検品検量など、すべてを当社が代行してしまおうというアイデアだ。資金も製品も当事者同士が直接取引しなくても、うちが間に立ってリスクヘッジしますよ。これならパートナーリスクは実質上ゼロでしょ。これくらいリスクを押さえてから取り組まないと一発で命取りになるからね。」