●朝一番で「今日は名古屋まで講演に行きます」という連絡をもらった以上は、とんぼ返りしていただくわけにはいかない。「じゃあ、ちょっとおでんでも」と鶴ちゃんを誘ってガード下の居酒屋に向かった。
●「大将、冷や酒一本。お銚子で」
おでんを肴に『伝説のホテル』の鶴岡秀子社長と四方山話。いろんな人物評が聞けておもしろかった。人の話題は酒がグビグビすすむ。
ゆうべは、もっぱら二人のコンサルタント(FさんとSさん)の魅力や仕事ぶりについての話題が多かった。あと、来年からスタートする「人生をシフトさせる伝説の8日間」の講師陣のスゴサについても聞かせていただいた。
●天性の営業力なのだろう。鶴ちゃんに誰かの人物評をさせたら、皆、偉人に聞こえてくる。結局、ほぼ全員に「会わせてほしい」とお願いしたような気がする。基本的に人に会うのが嫌いな私が「会いたい」と言ってしまうのだから、相当なプレゼン力だ。
●この話も強烈だった。
それは、福島県の柏屋さんのお話。
郡山を代表する、いや、東北を代表する銘菓・「薄皮饅頭」で有名な柏屋をご存知の方は多いだろう。私も大ファンで東北に行ったら必ず買うお菓子である。
その柏屋さんの創業は嘉永五年(1852年)、ペリーが黒船で来航する前の年である。今年で158年の歴史を誇り、現在の本名幹司社長で5代目になる。
●その柏屋さんの家訓は「代々初代」だという。実に明快で分かりやすい家訓ではないか。
経営者が何代まで継がれようとも、そのたびに初代のつもりで仕事に取り組みなさいという教えである。
●それだけではない。
経営のバトンタッチはどんなタイミングがベストか、ということについても暗黙の了解があるらしい。
それは、今まで経験したことのないような難題にぶちあたった時にバトンタッチする、というもの。
常に創業者の気持ちで経営革新するためには、花道を飾って引退するより困難の最中にバトンタッチしたほうが良いという考えである。
●現社長も、水害で工場が水没してしまったときにバトンタッチを言われたそうで、文字通り波乱の経営人生の幕開けだったようだ。
それを乗り越えていく中で自然に「初代」のマインドが養われていくのだろう。後継者としても、いつバトンタッチされるか分からないのでウカウカしておれないわけだ。
●酒がまわっていたせいもあるが、それを聞いて私は「ウワーッハッハッハ」と思わず大笑いしてしまった。
「おもしろいでしょ」と鶴ちゃん。
「ウン、おもしろすぎる、ハッハッハ。最悪の時期に逃げるようにバトンタッチするのが家訓だなんて、なんて素晴らしい」
「逃げるわけじゃなく、あえてそうされてるんですけどね」
「うん、わかってる。世間の会社もそうあるべきだと思う。あえてそうするから『代々初代』の精神が続くんだよね」
●麻雀用語で言うなら、テンパイで引き継ぐより、ひどいハイパイで引き継いだ方が力がつく。
経営者は「花道」など考えるのは金輪際よそう。「ひでぇな、親父」と後継者に言われようではないか。
「代々初代」それに「ひどい時に引き継ぐ」、この二つはセットでなければならない。
★柏屋 http://www.usukawa.co.jp/home.html