●昨日の続き。
デューク・秀丸社長と名古屋駅で合流し、のぞみ号に乗った。車中、ネットで僧・月性の予習をする。広島駅で穴子弁当を買い込んでから在来線に乗り換える。
今日のお目当ての「月性展示館」は柳井港駅で降りて徒歩15分のところにある。目の前は瀬戸内の海だ。
●「あ、ありましたよ、武沢さん」と秀丸社長。今日から10月だというのに、まだ暑い。
展示館の受付には女性が座っていた。私よりも18歳年長の愛子さんだった。我々を見るやいなや立ち上がり、破顔一笑して、
「やぁやぁやぁ、よくおいでなさった。まぁまぁまぁ、かっこのいいお二人さんで、やぁやぁやぁ、どちらからおいでました?」
「名古屋とラスベガスからです」
「まぁまぁ、遠かったじゃろうに。どうしてまた」
「どうしてって、この月性展示館が見たくて来ました」
「へぇ~、それはすまだったね~(ありがとう)。私で良かったらご案内しますが」
「あ、是非お願いします」
それから約4時間、閉館時間の夕方5時近くまで我々に完全密着して展示館をご案内いただいた。
●「人間(じんかん)いたるところ、青山(せいざん)あり」と詠んだ幕末の僧侶・釈 月性(しゃく げっしょう)が生まれ育った妙円寺の敷地内に展示館があるのだ。
●親も心配するほどのガキ大将だった月性は、日本全国を旅しながら人格を陶冶し、学問を深めた。
15歳のとき、九州の「恒遠醒窓」(つねとう せいそう)を師として5年間、詩文を学ぶ。月性が好んでもちいた号を「清狂」(せいきょう)というが、展示館にある「清狂遺稿」267篇で詩人としての評価を不動にしたが、その礎がこの九州遊学にあったようだ。
●さらに仏学の大家として名高い、佐賀の住職「不及」(ふぎゅう)を訪ね、基礎から仏典を学んでいる。
また、当時唯一の開港地であった長崎も訪れ、出島でオランダ船を見たり、緊迫する世界情勢やアジアの植民地化の状況を肌で感じとったりした。月性の憂国の念は、ここでつくられた可能性が高い。
●27歳になった月性は、京阪地方に師や友人をもとめて旅をする。その出発にあたって詠んだのが「いたるところ青山あり」の詩なのだ。
大阪での4年間、月性は名声のほまれ高い「篠崎小竹」に学び、「梅田雲浜」をはじめ、幕末の志士のさきがけとも交流を深めていった。
●妙円寺にもどってからの月性は、「清狂草堂」(せいきょう そうどう)という名の塾をひらき、青少年を指導した。
吉田松陰の「松下村塾」とも交流し、長州の2大私塾とのちに言われるようになる。
●月性は酒が大好きで、斗酒も辞さず。ひとたび飲みだすと、二升は飲んだといわれる。酔うと剣舞を舞ったようで、二枚しか残されていない肖像画の一枚は剣舞する月性である。しかも腹部が少々ぽっこりふくらんでいるのは酒腹だろうか。
●清く狂いたい、清いことに狂いたいという意味だろう。「清狂」とよばれることを好んだ。
私も月性のように旅するメルマガ作家として日本のために狂いたいと思い、月性の色紙やピンバッチを記念に買い求めた。
●「武沢さんも雅号をもたれたらいかがですか?」と秀丸社長。
「そうですね、これを機会にもちましょうか」と笑いながら私。どんな雅号がよいか、あれこれ考えた結果、「月性」と「清狂」から一文字ずつ頂戴して「性狂」にした。
●ペリー来航以後の幕府の軟弱外交を痛烈に批判し、尊王攘夷を説いた月性。
とくに日本の海防を論じ、「海防僧」と呼ばれた月性は、言論が激烈で、あの過激な松陰でも「どうか、お言葉にはご注意を」と手紙を書き送って心配している。
●13歳年下だった吉田松陰は、最初、同じ長州に「尊皇攘夷」を説く僧がいると聞いて怪しんだという。
仏教に批判的だった松陰からみれば、なぜ僧侶が天皇制に荷担するのか不思議だったはずだ。天皇家は仏教ではなく日本神道が担ぐものではないのか、ということだろう。
●しかし、幾度かの手紙のやりとりや、月性が書いた「護国論」などの論文をよむうちに心酔していくようになる。松下村塾の公式行事として、萩に来た月性の講演を塾生たちに聞きにいくようにうながした。
●松陰が処刑される前年の安政五年、月性は42歳でなくなった。病死説と、幕府による毒殺説がある。
「月性展示館」にあった大正12年製作の映画「月性」(50分ビデオ)は、明らかに幕府による毒殺死の立場でつくられていた。
●維新が成り、明治新政府の要職を薩長が占めた。しかも、松下村塾の塾生が羽振りを利かせた。
僧・月性の名がさほど高くないのは、誰かの何らかの思惑があったとしか思えない。それほど、月性が果たした志士として、指導者としての役割は大きい。
その月性の素晴らしさを私に教えてくれた秀丸社長はもちろん、展示館の愛子さんの献身的なご案内にふかく感謝したい。
★月性展示館
→ http://www.city-yanai.jp/siyakusyo/syougaigakusyu/gesshou.html