●「値引きしてくれたら発注する」と言われたらあなたはどうするか?
私はもちろん受け付けない。なぜなら、値決めが経営だからだ。
一度決めた値段を相手の要求に応じて下げているようでは経営者のポリシーがどこにあるのか分からない。
●もちろん、企業努力や経営判断によって値下げすることは戦略といえる。また、キャンペーンなどで一時的な値下げをするのも販売戦略の一環だろう。相手次第、条件次第では、”超法規的判断”(例外判断)も必要になるかもしれない。
だが、目先の受注ほしさに、客先の要求に屈して値引きしているようでは腰砕けのそしりは免れないだろう。
●私も10年間、メルマガ広告の依頼を承っているといろんな出来事に遭遇してきた。
最近は、ネット業界を牽引しているような先端企業が「20万円の広告を15万円に値引きしてくれたら発注する」というようなメールを送ってこられて当惑した。
広告担当スタッフが私にそのメールを転送してくれるのだが、私はほとんど即答で「断っておいて」と返事することにしている。
●相手から少しでも値引きを引き出したいという気持ちがあるのは理解できる。だが、「20万円を15万円にするなら発注確実」などと一方的に言ってこられると、それは相手に敬意をはらった正当な価格交渉というよりは、札束でビンタするやり方に思えて好感がもてない。
目先の売上げ欲しさに値引きしてくれる業者があるかもしれないので、そちらと取り引きされてはどうかと思う。
●「うちのやり方に文句あるんだったらよそへ行っとくれ!」という頑固親父になれというのではない。だが、無礼な要求に対してなら、それで良いと思う。
問題は、無礼ではない値引き要求に対してどう取り組むかが経営者の姿勢であり、そこに哲学がなければならないのだ。
●「値決めは経営だ」と京セラの創業者・稲盛さん。『心を高める、経営を伸ばす』の中に次のような一節がある。
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値決めにあたっては、市場で競争するのですから、市場価格より若干安いという価格になるはずです。市場価格より大きく下げて利幅を少なくして大量に売るのか、それとも市場価格よりあまり下げないで利幅を多くして少量を売るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあるはずです。
つまり、量と利幅との積の極大値を求めるわけですが、これには様々なファクターが入り、簡単に解くことはできないのです。どれほどの利幅をとったときに、どれだけの量が売れるのかを予想するのは、非常に難しいのです。この値決めは、経営を大きく左右するだけに、私はトップが行うべきものと考えています。
そうすると、どの値をとるかということは、トップが持っている哲学に起因してきます。強引な人は、強引なところで値段を決めるし、気の弱い人は気の弱いところで値段を決めるのです。
もし値決めによって会社の業績が悪くなるとすれば、それは経営者の器の問題であり、心の問題であり、経営者の持つ貧困な哲学のなせる業だと私は思います。
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●株式会社エーワン精密の創業者・梅原勝彦(うめはら・かつひこ)氏は、創業以来いままで一度も値下げをしたことがないという。
多くの町工場が、利益が出るか出ないかであえいでいるなか、同社はケタ外れの利益を叩き出している。創業以来39年間の平均経常利益率は、なんと40%!
あのユニクロの経常利益率14.8%(2009年8月期)を遥かに上回っている町工場なのだ。しかも、エーワン精密にはオンリーワンの技術はないという。エリート技術者もいなければ特許製品もない。それでいながら、創業以来一度も値下げをせずにやってこられたのはなぜか?
●それは、仮にお客が値段につられて一度は他社に浮気しても、必ず戻ってくる根拠を作っているからだ。
それは、
・高収益の秘密(1) 価格を死守する「短納期」
・高収益の秘密(2) 数字の“裏”を読む
・高収益の秘密(3) “親子の絆”が会社を強くする
の三つだと梅原氏。
特に「短納期」の魅力についてエーワン精密の取引先でもある日本電産の永守重信社長はこう語る。
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「エーワン精密さんの何がすごいって、経常利益率がとんでもなく高い。39期連続で35%を超えてます。何でそんなことが可能なのか。それは圧倒的な短納期という強みがあるからです。よそが1週間から2週間かかるところ、注文を出したら翌日に届く速さやからね。ウチもようけ(たくさん)エーワン精密さんから買うてますが、『ちょっと値段まけて』と言いたくても、よう言えへんのですわ」
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●客先が「値段まけて」と言えないようにした結果、借入金ゼロ・自己資本比率は90%超になった。
歯を食いしばって値引き要求に耐えたことの見返りは絶大なのだ。
これもひとつの立派なスタイルだと思う。
●不況だから客先も困っている。だからこそ、安易に値引きしてあげるべきなのか、それとも一切値引きせず、値段以上のものを相手に返してあげようと努力するのか、はたまた他のやり方か。
経営者のポリシーが問われる場面である。
その時になって動揺しないよう、日頃から「価格設定と値引き要求に関する方針」を明確にしておこうではないか。