ご覧になった方も多いと思うが、ノーベル賞受賞者の江崎、小柴、野依各氏のテレビ鼎談が興味深かった。
ノーベル賞を取るような偉大な研究・発明・発見というものには、失敗や偶然から生まれたものが少なくない。いや、むしろ失敗と偶然の中からしか偉大なものは見つからない、と言うべきかもしれない。
そうした点では、「失敗が成功の母」であることには違いない。だが、文字通り「成功の母」にするためには、当事者のセンスが問われることを知っておこう。
江崎玲於奈氏(芝浦工業大学学長)は、テレビ番組の中で、それを「テイスト」と表現していた。氏の話を要約すると次のようになる。
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失敗をくり返していく中で、徐々に真理に近づいていく研究者がいる一方で、懸命に試行錯誤をくり返すがなかなか成果に結びつかない研究者がいる。それを研究者仲間では、“テイスト”が良い・悪いと表現している。例えば、“うまい”ということを知っている料理人は、経験を増すごとに料理がうまくなる。うまさの本質を知らない料理人は、どれだけ経験を重ねてもうまくならない。
その差を生んでいる「テイスト」は、本質を知っているかいないか、の差である。
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江崎氏のこの話は、研究や料理だけのことではなく、ビジネスや経営の現場でもそのまま当てはまる。
例えば、WEB制作を仕事にしているA君とB君がいたとしよう。最初に会ったときには年令も技術も知識もほとんど大差なしの二人。だが、A君は会うたびに腕を上げていく一方で、B君は全然上達しない。
この差は何か?
それは目的的であるか否かの差だ。
A君は、三つの目的を知っている。
・WEBを作るということの目的
・顧客が望んでいる最終成果という目的
・A君自身の会社の目標や目的
そしていつもこの三つの目的に近づくよう努力を重ねる。ところがセンスの悪いB君は、これら三つの目的を忘れているか、それとも最初から知らない。
違いはそれだけではない。
A君は、目的的であるがゆえに、まだ誰もやったことがない挑戦をする勇気をもつことができる。
B君は、目的的でないがゆえに、絶えず人の猿まねや後追いしかできない。オリジナルがない。
こうして1年、2年経過すると、二人の間にはアッと驚くほど歴然とした差がつく。
私たちも経営者として、今年も数多くの挑戦と失敗をくり返すに違いない。だが、あなたが目的的であり続ける限り、偉大な何かを発見する可能性はそのつど増すのだ。そんなあなたを周囲は、「センスの良い経営者」とよぶ。
今年一年、センスの良い日々を送りたいものである。