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火の用心部長

●「火の用~心、マッチ一本火事のもと。火の用~心。鞠(まり)は蹴ってもこたつは蹴るな、火の用心!」と拍子木を打ちながら夜回りする。
子どもの頃、私にそんな夜回りの当番が回ってきた。冗談好きの父にそそのかされて、私はこんな言葉で夜回りし、あとから母にひどく叱られた。

「火の用~心、親は蹴ってもこたつは蹴るな、火の用~心」。

●「火の用心」と社長が経営方針で発表したら、部長も「火の用心」を連呼し、課長も主任も一般社員までもが、「火の用心」を唱えるだけ。給湯室から火が出ていても互いに「火の用心」と声をかけ合う、そんな笑い話のようなことが現実の経営にはよく起きるものだ。

●先日、都内の人材派遣会社を訪問した。その会社はある業界に特化した派遣会社として大きく成長してきたが、先代社長の急逝、法改正、景気の低迷などによって業績がいちじるしく悪化していた。

●今後、我社は進むのか、止まるのか、引き返すのか。右へ曲がるのか左へ曲がるのか直進するのか。勇気ある経営のかじ取りが必要なタイミングなのだが、社長に就任して日が浅いA社長(32)としては、迷うことばかり。
経営会議や幹部会議で、どんな発言をして社員をリードしていってよいのか分からない。

●みんなの知恵を集めたいのだが集め方が分からない。「だから、一度会議を見てほしい。そして率直な感想を聞かせてほしい」というのが彼のリクエストだった。

面倒くさそうだなぁと思いつつも、私と彼とは旧知の仲。60分限定で会議に参加し、後日意見を言うということで経営会議に参加した。

●一週間後の夕方、私を含む5人が勢揃いしたところでA社長が開会のあいさつを始めた。その内容は実にシビアなものだった。

・依然として景気がきびしく、業界も我社もたいへんきびしい
・最大の客先から契約キャンセルの申し入れがきている
・もしそうなれば、我社としては売上の半分を失うことになる
・そうなった場合、12月からの月間売上は○○○万円ほどになり、毎月△△△万円の赤字が出続けることになる
・今の資金状況でいけば11カ月後の○月に資金ショートする
・それまでに何とかしなければならない

という挨拶だった。

●世間ではよく、暗い会議のことを「お通夜のような・・」などというが、お通夜には嘆きと悲しみという感情がある。涙もあるし、励ましもある。
だが、この日のこの瞬間の参加者には一切の感情がなかった。だから、お通夜よりも冷ややかに感じた。

●暗い会議だなぁ、と思っていたら営業担当役員のBさん(32)が発言を求めた。何を話すのかと注目したら、なんと社長を攻撃しはじめた。

「社長、だから私は何ヶ月も前からこうすべきだ、と言い続けてきているんですよ。それをおやりにならないから、ずるずるとここまで来てしまったんですよ」

●なるべく私は発言しまいと思っていたが、我慢できなくなった。

「今、この場で大切なことは、誰の責任か、どうすべきだったか、というふり返りじゃなくて、今後我々は何をするかを決めることではないですか。だとしたら、他人批判はそれぐらいにして、各自のアイデアをテーブルの上にたくさん集めて、最終的に何かの意思決定をするという会議の進め方を提案したいのですが、どうですか」

●すると、B部長はますます憤慨して鼻息荒くこう言った。

「すでにそんな会議のやり方だって、何ヶ月も前から私が社長に進言していることなんですよ。でも社長がそれをやらないんだからしようがない」

●相当根が深いような気がするが、この会社はすでに出火している。
互いの信頼回復を計るようなことはしていられない。手を組むしかないわけで、彼に社長と手を組む気があるかどうかを確認する必要がある。もちろん、それより先に社長に彼と手を組みたいかどうかを聞いてみたい。

●誰がなにを言っても、「知ってる」「分かってる」「やってる」を連発し、それでいて成果を出さない幹部がいる。
それでも先代社長のもとでは優秀だったのかもしれない。あるいは、イケイケの業績好調時には有能な幹部だったのかもしれない。

だが、会社が火事で燃え始めている今、もっとも困る存在は「火の用心」としか言わない幹部なのだ。

「火の用心、マッチ一本火事のもと。こたつを蹴っても社長は蹴るな!」

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さて今から神田にある株式会社セントラル総合研究所さんを訪問してきます。同社・八木宏之社長との対談で、民主党政権によって中小企業経営が今後どのように変わるのか、というのがテーマです。

今後、中小企業の経営常識が大きく変わるということが八木社長の新著に書かれていますが、そのあたり、もっと具体的につっこんで確認してこようと思います。なお、今日の対談の模様は、来週のメルマガでご紹介する予定ですので、お楽しみに。