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すごい引っ越し

●昨夜、「すごい会議」の大橋禅太郎さんオフィスで小ミーティング。
「すごい会議」のやり方を黒帯レベルでマスターしたら、日常のいかなる辛い場面でもおもしろく変わる可能性があるようだ。

ゲームセンター店員との感動秘話や、無愛想なギターショップの店員の豹変など、ありがちな嫌な相手を「すごい会議」の流儀をつかってドラマチックに問題解決するなんて、いかにも猛者だ。

そんな彼の体験談の数々のなかから、今日はひとつだけこっそりお教えしてしまおう。

・・・
ある日、大橋さん宅で何度目かの引っ越しを行った。

午後1時半に業者が来るはずなのに、3時半にやってきた。遅刻の詫びも言わないので、「なんだ、こいつら」と腹立たしく思いながらも、せめて作業だけは気持ちよくやってほしい一心で、注意するのを我慢して作業にとりかかった。

ところが作業のレベルも低い。タンスを運ぶときに衣類がバラバラとこぼれ落ちたりする。
あげくの果ては、ベッドが二階から下ろせないと言いだした。いったんバラしてから下ろし、あとは転居先で家具業者を呼んで組み立ててもらうしか方法がないという。

「おっかしいよ、ここへ引っ越す時にはちゃんと入ったんだから」
「入ったとおっしゃいましても、ほら、この通り!」と業者はタンスをどんな角度にしても下ろせないことを証明する。
・・・

●さてそんな最悪の引っ越しが始まったら、あなたならどんなカードを切る?

1.険悪になるのを覚悟で、こちらの不満をぶつけ、ちゃんとやらせる(やってくれれば、だが)
2.我慢する(今回は不運だったと悟り、彼らにすべて任せる)
3.業者にクレームをつけ、メンバーチェンジまたは、契約解除する(お客として正当な権利を行使する)
4.その他

私なら「3」のカードをちらつかせ、まず「1」のカードを切る。それでも改善しなければ本当に「3」のカードも切る。「2」はあり得ないし、「4」は何も思いつかない。

●この時、大橋さんは「4」を選んだという。
大橋さんの家族と引っ越し業者の全スタッフあわせて数人で「すごい会議」を開いてしまったのだ。

チームリーダーとおぼしき人に向かってこう言った。
「あの、ちょっと手を止めて5分間僕に時間をくれますか?」
「え?」
「みんなをここへ集めてほしいのです」
「なにをするのですか?」
「お願いだから集めてください」
「・・・、分かりました。5分ですね」「おい、みんな集合」

●関係者が勢揃いした。ファシリテーターの大橋さんは、全員に質問した。

「私たち家族も、あなたがたも引っ越しを何度も経験されていると思いますが、今日の引っ越しは10点満点で何点をつけられますか?点数をこのメモ用紙に書いてください」

「なにが始まるんだ」という顔をしながら、皆、点数を書きそれを発表した。
業者は全員が、6点か7点だった。
大橋夫妻はふたりとも最低の1点だった。

「では次の質問をします。どのようにしたら、今日の午後○時の時点で過去最高の20点(満点の倍)をつけられるようなスゴイ引っ越しができるかを考えてくれませんか」

●最初、彼らの反応は否定的なものだった。こんな時間はもったいないと言わんばかりの顔つきをしていたという。

だが話の内容が、お客の叱責や一方的な要望ではないと分かりだした。話題が自分たちの仕事がより気持ちよくなり、なおかつ誇りを感じられるものになり、しかも感謝されながら早く帰宅できる方法を考えるものだと分かり、積極的に発言するようになった。

●それから30分後、下りないと言っていたベッドは下りた。二階のサッシを外し、クレーンで釣り下ろす方法を誰かが考案したのだ。
二度と衣料がタンスからこぼれ落ちることもなくなった。彼らはプロと呼ぶにふさわしい仕事をしはじめた。

●数時間後、すべての引っ越し作業を完璧な状態で終え、全員でちょっとした打ち上げをやった。
そこで始めて遅刻した理由を尋ねると、彼らは15時半と聞いていたので、定刻にきたつもりだったと分かった。13時半と3時半、ありがちな連絡の行き違い。

●サンドイッチをほおばりながら、彼らは「こんな楽しい引っ越しは初めてです」と異口同音に感想を述べた。

「また会おう」「ええ、是非」と大橋家と業者。

それは中学校の卒業式のような、目頭が真っ赤になる別れであったという。

●「すごい会議」も黒帯になれば、クレーマーにならずに済むようだ。

引っ越しを予定されているあなたも「すごい引っ越し」をやってみよう。まずは「すごい会議」をよく知ることから。

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