●もちろん温泉が好きだから温泉旅館へ行くのだが、隠れた楽しみは勝手に宿を格付けすることでもある。
温泉旅館なのだから泉質の良し悪しが一番大きなポイントだが、それはある程度行く前から分かっている。
それに料理がうまいまずいとか、接客が良い悪いというのも「じゃらん」や「楽天トラベル」でのクチコミ評価を見ればだいたい想像がつく。
●そうした第三者の評価は宿選びの段階で参考にはするが、いざ、宿を訪れたときにはそうした予備知識は脇へ置く。
まっさらな気持ちで訪れ、我が家のように気兼ねなくすごすようにする。
「眠る前にグラスワインを飲みたいのですが」「目覚めにコーヒーを飲むことはできますか」
その答えはNGでも構わない。
イレギュラーなお客への対応と態度がポイントである。標準的なサービスを受けるだけでは分からない宿の姿勢がそこから分かるようになる。
●この週末、はじめて草津温泉を訪れた。
あいにくの雨。そのせいか、ものすごく寒い。コートなしで来たことを後悔するほどだが、だから温泉がありがたかった。
草津温泉の宿はほんどが湯畑から温泉を引くが、今回お世話になった「ての字屋」さんは、敷地内の岩のすき間から噴出するバージン温泉に入ることができる。それが「ての字屋」自慢の岩風呂。
●生ビールと一緒で温泉も鮮度が命。
噴出したての温泉に加水も加温もせず、そのまま浸かるのが身体に良いとされるが、噴出している温泉が熱かったり冷たかったりするから旅館は苦労が絶えない。
●しかし「ての字屋」さんの岩風呂は源泉が46度、それが空気に触れて檜の浴槽に満たされると自然に42~43度と奇跡的に最高の湯温が保たれる。もちろん、源泉かけ流し。
●温泉からあがり、浴衣に着替える。今回は温泉と読書がメインの旅。
湯上がりのビールも我慢して、部屋備え付けのモーツァルトをBGMに本を読む。
●本当に良い宿はお客に気兼ねや遠慮、気遣いをさせない。自宅にいるような寛ぎのスペースと時間を提供してくれる。
「失礼します」と入れ替わりたち替わり人が入室してくる旅館もあるが、良い宿は相手に応じて態度を変える。
それは夕食のときも同様で、こちらが尋ねれば「こちらが○○産の金目鯛で、こちらのお皿が今朝ほりたてのタケノコのお刺身でございます。ちょうど今からが旬でして、白根山では・・・」などと説明してくれる。だが、こちらが関心なさそうであれば「お造りでございます」「焼き物でございます」程度の説明しかしない。その間合いを計ることができる人がサービスのプロである。それが旅館ぐるみで出来ているのが名旅館。その点でも「ての字屋」さんは明らかに名旅館である。
●先日、ある会合で使った小料理屋さんでは、料理が出されるたびに仲居さんがその料理を説明する。
そのたびに会話が途切れるでの、「説明は入りませんから」と私が言ったら「あら、そうですか」とあきらかに不機嫌そうな顔をされた。
そんな客は今までいなかったのだろう。
●そう思っていたら、接客をしない割烹店が都内にあり、政治家や経営者に評判をよんでいるという。
お店によっては、サービスをしないというのがサービスなのだと思う。