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SN比

●「広島から出張に来たのでご飯を食べませんか」と誘われ、ある経営者と東京駅構内でランチミーティングをした。

その後、私が新宿へ向かうと告げたところ、彼は「どうやって行かれるのですか?」と聞いてきた。

●私が、「さぁ、適当な電車に乗りますよ」と言うと彼は腹をかかえて笑いだした。
「えっ、どうしたの?」と聞くと、彼は

「計画的な武沢さんでも”適当”に動くことがあるのですね。武沢さんから”適当”という言葉が聞けるとは思いませんでしたよ」と笑い続ける。

どうやら彼は、私が「何時何分発の○○線に乗る」というように前もってすべて決めてから動いていると思っているらしい。

●週末のことゆえ、私にとって何時発のどの路線で新宿へ向かうかは些事だった。

「些事(さじ)でござる」が口ぐせだったという越後長岡藩・家老の河井継之助。
「些事でござる」とは、大事なことはきっちりやるが、些事(大事でないこと)はあまり気にしないし興味もないという意味だろう。

●「些事」とはノイズ(雑音)である。
ノイズに焦点を合わせると、本当のシグナルを見逃す、聞き逃すことになる。

●音響や電子工学の分野では、「SN比」(エスエヌ比)という言葉を使う。英語では「Signal to Noise ratio」と言い、正しい信号(音や映像)と、それ以外のノイズ(雑音)との比率を指す言葉。

当然、「SN比」が高いほど性能が良い。

●私は本や講演、はたまた人間にも「SN比」があると思う。

たとえば講演やセミナーの場合、中味が濃くて充実しているセミナーは「SN比」が高い。それに比べて本質から外れた時間が多くて中味が乏しいものは「SN比」が低いということになる。

●落語を聞きにいった場合は、お笑いが目的だ。
だからその場にいて大笑いできれば「SN比」が高いと言える。全然笑えなかったら「SN比」が低い。

●本の場合、何箇所も線を引いたり付箋を貼ったりする本は「SN比」が高く、さらさら読めるが何も残らない本は「SN比」が低い。

●「SN比」は人の話にも当てはまる。
長時間おしゃべりするが中味が乏しい人は「SN比」が低く、あまり口を開かないがボソッと話すことに含蓄がある人は「SN比」が高い。

●「SN比」はサービスにも当てはまる。

レストランへ行ったとしよう。お店の立地も最高、看板も目だって分かりやすいが、肝心の料理がまずかったり、接客が悪かったりしたら「SN比」が低い。サービスの本質を外すわけにはいかないわけで、何が「S」(シグナル)で何が「N」(ノイズ)なのか、峻別できていなければならない。

●役に立つ経営計画書は、「SN比」が高い。
いろんなことがたくさん書いてあるがノイズが多い経営計画書は「SN比」が低い。

●志ある生き方をして人生に足跡を残すことができれば「SN比」が高い人生。波瀾万丈だが何も残せなかったら「SN比」が低い。

でも一番大事なのは人の評価ではなく、あくまで自分が下す自己評価。

あなたにとって何が「S」で何が「N」か、時々自分に問いかけてみよう。

「SN比」が下がらないように、今日はここで筆を置く。