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北川八郎 伝

●「この世に偶然はなく、すべて必然である」という話を聞くが、それが真実のことかどうか私は知らない。

ただ今回、私が「青年の船」に乗ったのは、北川八郎先生に出会うための、天のはかりごとだったのかも知れないと思っている。

●二年ほど前に『あなたの生き方を変える断食の本』(北川 八郎 著、致知出版社)を読んで北川先生のお名前は存じ上げていた。

その本の影響で私は氏のことを「断食と瞑想の指導者」という認識しか持っておらず、「青年の船」でいったい何をお教えになるのかと、興味津々だった。

★「あなたの生き方を変える断食の本」

●乗って分かった。氏は人生そのものの指導者だった。

以下の話は、「青年の船」のデッキで、私が先生から直接お聞きした「北川八郎伝」である。自分の学習の整理も兼ねて、記憶をたどりながら書いてみたい。以下、敬称略。

●北川八郎。 昭和19年、福岡生まれ。小倉高校を卒業。
昭和25年に勃発した朝鮮戦争。九州上空を飛ぶ米軍飛行機を見上げながら北川少年は、「自分も飛行機乗りになりたい」と思う。そして防衛大学に入学。だが、戦争に荷担する人間になるのはやめようと、わずか一年弱で退学し、民間機のパイロットを目ざして全日空に入社。

そんなある朝、「母大病」の知らせが届く。

●当時、パイロットになるための最終訓練はアメリカの施設を利用することになっていた。北川は、その訓練さえ受ければ、パイロットになれる。だが、母の病気は重い。

●北川青年はパイロットの夢を後回しにして、九州の母の元に帰った。
母の病は重く、闘病生活は長きに及んだ。北川はパイロットを断念。
母の看病を終え、化粧品メーカー「カネボウ」に就職した。

余談だが北川は、あの夏目雅子さんとのミーティング現場にも立ち会っている。

●32才、カネボウ退職。その理由ははっきりとは語らない。

しかし、銀座の高層ビルから下を見下ろす北川青年のまぶたには、アリのようにこまごまと行き交う人の群れがあまりに小さく、彼らの懸命な働きがほとんど大企業の利益となって吸収されていくことにむなしさと非人間性を感じていたのかも知れない。

●いったん信州で暮らし、断食生活を始める北川。
その後、更に深遠な真理と悟りをもとめて単身インドに渡る。ブッダの聖地を放浪し、洞窟で修行する聖者たちとともに断食・瞑想をして暮らす。
当時、聖者たちから教わったヨガは、今も北川の生活にとってなくてはならないものになっている。

●帰国後、41才をむかえた北川は導かれるまま熊本に移り住む。この地がよほど性に合ったのか、断食と瞑想がぐんと深まる。

41才の時43日断食を、43才で46日断食を経験。
完全断食の前後には、それぞれ同じ日数の半断食期間と復食期間が必要なので、年間150日の断食生活を二度も経験していることになる。

●断食では、山林に小さなテントをはり、その中に飲み水とやかんとマッチ、寝袋だけを持ち込む。
日中はテントの外に出て大自然に包まれて瞑想。夜はテントに入って眠る。
そんな生活を繰り返すうちに、食欲・睡眠欲・性欲といった生理的欲求や、金銭・地位・名誉・名声といった社会的な欲望もすべてが、いずれ滅び行くすごく薄っぺらい存在であることに気づく。

●そんなちっぽけなものを手に入れるために生まれてきたのではなく、人間は、もっと広大無辺で精妙な別世界の喜びに包まれていることに気づく。それを悟りというのだろうか。

●生まれつき目の不自由な方に赤や黄色を説明するのが困難なように、その時感じた無上の喜びは言葉で説明することができない。

色には音があり、音には色がある。青い空はいつも「ソ」の音を発し、緑の葉っぱは「ミ」の音を出している。本来は無音のはずの山林なのにとても心地よい音楽に包まれている。

●断食30日目を超えると、植物、動物、昆虫たちと意識が通じ合うようになる。
蝶が頭上や手のひらで戯れ、トンボが遊びにやってくる。北川が苦手な蛇もときどき近寄ってくるが、意識で追い返す。

「蛇よ、お前は私の友だちだ。でも私はお前が好きではない。だから、私から離れなさい」

すると蛇は、その場で舌をペロペロ出しながら「しようがないな」という表情でUターンしていく。

●ある夜、野犬の群れが北川のテントを取り囲んだ。北川は寝袋の中で目を覚ました。するとどこからか、「外に出てやりなさい」という声が聞こえた。

まるで狂犬のように吠えまくる野犬の群れ。その前にすっくと立った北川の心は、鏡面のなぎのように穏やかだった。
ボスとおぼしき野犬と目を合わせ、互いに相手を確認しおわると野犬の群れは立ち去っていった。

●35日が過ぎると、身体はまるで骨と皮だけになる。脂肪はすでに使い果たし、動けなくなる。そんな時、動くためのエネルギーは別の方法で補給できるようになる。

<明日につづく>

※我流での長期断食は生命の危険をともないますので、安易にマネなさらぬようお願いします。