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続・青年の船

●一部の人しか理解しづらい「青年の船 とうかい号」。
特殊なこの話題を書くことは、多くの人にとって興味のないことかもしれない。だけどこの9日間、私が見たもの、聞いたもの、感じたものはあまりに大きく、喜怒哀楽の感情までもが大きくなってしまったようで、今も「とうかい号」のアドレナリンが分泌している。昨夜も珍しく、テレビでもらい泣きした。
だから、もう少しだけ書かせてほしい。

●600人がひとつの船に乗って朝から晩まで丸々9日間の研修プログラムを消化する。しかも、一糸乱れず分刻みに。

参加するのはJCメンバー(OB含む)企業から派遣された社員や子弟を中心に大学生から35才程度までの青年男女だ。今回は女性比率が多い船だというが、それでも100人ほどしかいない。
25年前の私のように、22万円の参加費用をすべて自費で払って参加する人だっている。

●豪華客船「ふじ丸」を9日間も貸し切って外国を往復する。その間の生活すべてが研修だし、さらにその中に毎日数時間の研修枠がある。
費用でみれば億単位、時間でみれば10ヶ月ほどの時間を費やすビックプロジェクトのテーマは「すべては一般乗船者のために」。

●忙しい会社経営の合間をぬうというよりは、会社を誰かに完全に任せてしまって準備に費やしてきたアツイ経営者も少なくない。
この挑戦自体がすでにクレイジーだし、過去35年、毎年それをやり遂げてきた青年会議所(東海地区協議会)はスゴイ組織だと思う。
賞賛に値するし、できれば、これからもやり続けてほしいと部外者ながら願ってしまう、唯一無二の研修船だ。

●だからこそ、各自がそれぞれに思い入れがある。私は講師として、講師の立場での思い入れがある。
だから「また乗るか?」と聞かれたら、「とうかい号は素晴らしいが、講師に対して今回のような対応ならもう乗らない」と答えるだろう。
おそらく他の講師4名も同じだと思う。

●そんな思いをつづった今週月曜日(6月16日号)の記事には賛否両論、たくさんの反響が寄せられ、めずらしいことには、電話まで数本かかってきた。
最初の電話は、今回のとうかい号で講師仲間となった橋本先生からのものだった。
橋本先生の希望は「武沢先生のホームページの原稿の一部を削除してやってほしい」というものだった。

●風邪による発熱でフトンにうつぶせながら私が理由を聞くと、

「武沢先生のあの記事によって、立場が著しく悪化する人がいる」という。
だが、それは当然のことだろう。私もそれを承知で書いている。

●しかし立場が悪化する人の中に、堀研修部長や成田研修委員長のような研修作りにおける「盟友」も含まれるということであった。
それは私の本意ではない。彼らは実によく働いたし、彼らがいなかったら実現できないメニューもあったのだ。彼らを含む研修委員会は、全員がMVPだと私は思う。

●「本部役員が悪い」と書くと、そんな彼らも含まれてしまうというので、そのあたりを配慮して、HPのバックナンバーだけは差し替えることにした。

だが、本部役員の一部に対する私の不満は、変わっていない。

●そもそも4月に行われた結団式の段階から小さな違和感はあった。

「○○君(本部役員の個人名)を男にしてやってくれ」

などと講師陣がいる前で平気で言いあう一部JCメンバーのデリカシー。まるで田舎のお山の大将が、卒業年齢に達して、周囲から持ち上げられて裸の王様になってしまっている構図がそこに見え隠れして滑稽であった。

●とは言え、男40ともなるともう立派な大人なのだから、良識さえあれば自分の滑稽さに気づくだろうと思っていたがそうでもないらしい。

研修船の9日間で一般乗船者は日々進化し、成長していったが、本部役員の一部は最後まで成長しきれなかったのではないか。

●私が今回、講師の立場で感じた違和感とは、腹をくくっている者とくくっていない者との違い。あるいは現場を知っている者と知らない者との違いのように思える。

●私も最初に講師として「とうかい号」への乗船依頼を受けたとき、インターネットができない大海原に丸9日間も行くこと自体がすでに大決断を迫られた。すでにある程度、腹をくくる必要があった。

●研修委員会のリクエストに応えるかたちで、乗船する前から相当入念な研修プログラムを準備した。
だが、どのような若者が集まり、研修ホールの大きさはどの程度で、音響はどうか、ホワイトボードは読めるのか、船の揺れはどの程度か、やってみないと分からないことばかりだった。

●二日目、いきなりアクシデントがあった。講師の一人が体調不良に見舞われ、予定していた研修がやれなくなった。
一時間前になって、私が急きょ代役に決まりメニューをアレンジして舞台に立った。

「すまない武沢さん」とその講師。「お互いさまですよ」と私。

●この段階からすでに、講師陣も研修委員会も一体化していった。
「すべては一般乗船者のために」ハンドメイドで産地直送のできたてパンのようなライブ研修をお届けすることが義務づけられたようで、それがかえって良い結果を生んでいった。

●そして、前半を終えた段階で、各講師陣の研修は一般乗船者にとってすこぶる好評だった。
そんなある午後、本部役員の一人と大浴場の脱衣場で出会った。

お互い、タオルで前を隠しながら「先生方のおかげで、今のところ、とてもこの研修船はうまくいっています。ありがとうございます」とでも言ってくれるのかと思った。
だが、彼の口からでた言葉は2オクターブほど高いテンションで、「先生方、どうですか、とうかい号は?」。

●どうも目線が違うのだ。

「少なくともあなたより俺の方がアツイ」

と言おうとしたが、「よくやってますよ、みんなは」とだけ言って風呂場に向かった。彼らは何も見ていないし、聞いてもいない。
そもそも24時間15分ある全研修枠のうち、本部役員が受講した全時間は1時間に満たないだろう。それで研修船と言えるのだろうか?

●無事済んだのだし、一般乗船者もヨカッタヨカッタと言ってくれるのだからそれでいい、というふうには考えてほしくない。
二度と「青年の船」への乗船依頼は来ないだろうから、私は一日も早く忘れてしまっても構わないかもしれないのだが、それでは後輩たちに申しわけないから、今もこうして書く。

●主催者がどう変わるべきかを考えるのは主催者だが、講師として素朴に感じるのは、まず乗船するJCメンバー全員に講師の名前くらい周知徹底しておいてほしいということ。
最後まで私が何者であるのかをまったく知らず、一度も会釈せずに行き来する役員が何人もいたのには驚くばかりだった。一般乗船者でも会釈と挨拶をしてくれたのに。

●私の思いは、がんばれ!「とうかい号」、がんばれ!青年会議所 東海地区協議会、がんばれ!36船、のつもりで書いた。

最後に、あなたが来年以降の「とうかい号」で講師依頼を受けたときどうすべきかだけを申し添えたい。
それは、まず本部役員と会って彼らの研修に対する思いを確認してから決断したほうがよい、ということ。

・・・橋本先生、もう電話いただいても今日の原稿は削除しませんよ。
私も毎日、腹をくくって書いてますから。