仕事で毎月のようにイタリア出張している旧知の E 氏は、サッカーと SF が趣味。イタリア往復のビジネスクラスでトスカーナワインと一緒にそれらの 本を読んだり DVD 鑑賞をするのが至福のひとときらしい。
最近 DVD で『インターステラー』を観たという。「私も見たよ」と言うと、「長年宇宙を旅していた父親が地球に戻ってきたら娘の方がはるかに老けていたというあの場面、覚えてる?」と聞かれた。もちろんショッキングな場面だったので、よく覚えている。
「あれはね、別名”ウラシマ効果”といい、人が光の速さに近いスピードで宇宙を飛んでいると、相対的に時間の流れが遅くなり、その結果として年をとるのが遅くなる。だからああしたことが起こりうるんだよ」とE氏。そのことは私も知っていたし、そのようなメルマガ原稿を書いたこともある。
E 氏は、「おれの仮説だが」と前置きしてこんなことを話した。「定年退職して田舎の実家に戻ったりして晴耕雨読の生活を始めると老けるのが早くなる。つまり、物理的なスピードだけでなく精神的なスピード(忙しさや時間の緊張感など)が加齢を遅らせる可能性もある。若さを維持する秘訣は、なるべく忙しくしておくこと。光速とまではいかなくても、毎日精力的に時間を使っていれば、のんびり暮らしている人にくらべて老いるスピードが鈍くなったとしても全然不思議ではない」
「ところでさ、人は規則正しく毎日決まった時間に眠り、決まった時間に起きるだろ、それはなぜだと思う?」と突然聞かれた。「そうねぇ、先祖の時代からずっとそうやって暮らしてきたから、我々の DNA に そうした体内時計がセットされているのでしょ」と私。
「当たらずといえども遠からず、だな。脳だけでなく、臓器のひとつひとつにもタイマーがセットされていて、ほぼ24時間周期に活動し、一年は365日のリズムで活動するようになっている。ただ、これから先は困ったことが起きる可能性がある」と E 氏。
「それは、SF の世界が現実になったときだ。 人間が地球以外の惑星で暮らしはじめたときに起こりうる問題。地球は24時間で一周する自転をくり返しながら、太陽のまわりを365日で一周する。そのリズムとは別の惑星に行くと人間はどうなるかという問題なんだ」
「どうなると思う?」とE氏。
門外漢の私にはまったくお手上げだ。
氏曰く、金星の一日は地球の243日分ある。ということは、人間は金星の一日の3分の1(つまり地球の81日)眠り、3分の1(81日)働き、3分の1遊ぶことになるのかもしれない。そのとき、食事の頻度はどの程度になるか。人の寿命はどうなるか。また、老いるスピードはどうなるのか。そのあたりのことは様々な実験が行われているが、生命がどんな可能性を秘めているのかまでは、よく分かっていないらしい。宇宙の神秘が解明されるスピードにくらべて、人間の神秘の解明は遅れていると E 氏。
「よく分からないのだったらオレに聞くなよ」と私。するとE氏はすました顔をして「分かっていることがひとつだけある」と胸をそらせた。
「それはね、インテルの監督を引きうけると年を取るのが早くなるってことさ。ハッハッハ」と E 氏。
「なんだ、サッカーか」
「そうだ。サッカー界ではそんな噂がもっぱらだ。それにサッカーとSF には接点も多いんだぜ」
「そうかい?」
「ああ、両方とも丸いものを扱ってるだろう。それにこの話題はご婦人があまり乗ってこないという点でも似てるんだよ」
「どんな話だって理屈っぽくされたらイヤだよ」
「お前に理屈っぽいと言われるとはな。ハハハ・・・」
今夜は土産のイタリアワインに免じて言わせておくことにしよう。