半年ほど前、ある建設会社で次のような会話をした。
「社長、どうして営業マンの顧客担当替えをしないのですか?これじゃ、会社のリスクは高まる一方ではないでしょうか。」
「武沢さん、実は数年前までは担当替えを時々やっていました。でもかえって逆効果だったんですよ。」
「逆効果?」
「ええ、担当が新しい社員に替わるとお客さんが不安がってしまって。新任者を引き継ぎに連れて行った直後くらいから取り引きが減ることが多い。組織替えの直後には毎年のように客数が減るので、それ以来担当替えをやめたのですよ。」
なるほど、あり得る話だ。だが、担当替えそのものを止めるというのは間違った選択だと思う。担当替えという制度に問題があるのではなく、その運用システムに改善すべき点があると考えるべきだろう。
さて、昨日の続き。
社員が顧客を持ち逃げするかのように、世話になったはずの企業を退職していく。そんな場面を何度か見てきた。明らかに敵対的な関係になるのを覚悟してでも顧客をもっていく社員もいる。また、本人は円満退社を望み、顧客を持っていくつもりはないが、顧客が付いていってしまう場合もあるだろう。
いずれにせよこの問題は、社員個人を攻撃しても始まらない。企業側のガードの甘さが事の本質だ。
企業側はどうすべきだろうか。その解答は、他ならぬ「顧客満足」を高めるための経営活動の中にあるのだ。
あなたの会社と顧客とは、どの程度、密にコミュニケーションが取れているだろうか?この1年間、今の担当者以外で何人の社員が顧客と接触を持っただろうか。また、営業担当者の訪問・接客という方法以外でどのようなコミュニケーションツールがあるだろうか。
すべて一社員に任せっきりにしていないだろうか。もしそうだとしたら、相当高い確率で「退職ダメージ」を喰らうだろう。積極的に複数の社員が接するようにしておくべきだ。主要顧客に対しては社長も含めた役員も定期的にコンタクトを取っておくべきだ。直接の訪問、あるいは、印刷物などを通した間接的なメッセージ伝達でも有効だ。それは、消極的な顧客保護策ではなく、積極的に顧客に対して企業メッセージを伝え、また、顧客の声を経営に反映させることなどが主目的であることを忘れないでほしい。
このような、企業と顧客とのコミュニケーション関係がきっちりと出来ていれば、ある日突然襲ってくる社員の「退職ダメージ」をかなり防ぐことが出来る。つまり、退職ダメージがデカイとお悩みの企業は、まず、怒りの矛先を社員に向けるのでなく、顧客と企業との新しい信頼関係づくりから着手すべきだろう。
冒頭に掲げた企業の場合、担当者が替わると顧客が不安に感じて客離れを起こすこともある、というので新手を発明した。「2枚看板システム」という。すべての顧客には担当を2名付ける。一名が「主担当」で、あとの一名が「サブ担当」だ。このシステムを導入して半年。予期せぬ効果が出始めた。顧客と社員との相性によっては、サブが主になり、主がサブになるという現象が起こり始めた。これは、顧客が選択できるのだ。今までは、相性が悪い担当に当たると他社を使うしかなかった顧客にとって、新しい選択肢が増えたということだろう。