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三四郎状態

今日は外国でビジネスするA社長から届いた質問メールに回答したい。まずは届いた質問から。

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武沢さんこんにちは。私は香港で会社を経営しています。ネットがあるとはいえ日本語の活字情報が貴重なので「がんばれ社長!」は欠かせない存在になっています。
さて、香港に来て二年目と日が浅いのですが、そのせいか、自分は香港に来て正解だったのか間違いだったのかを今でも考えます。日本にいるときは東京でサラリーマンをしていました。
武沢さんも名古屋以外に中国や東京にも拠点があるそうですが、本拠地をどこにするかについて武沢さんなりのお考えをお聞かせ下さい。
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スポーツでいえばフランチャイズタウンとかホームタウンとかいう本拠地だが、ビジネスにおいては、一番働く時間が長い場所が本拠地となるだろう。私の場合は遠征が多いが、それでも一番長くいる場所は自宅がある名古屋だろう。

本拠地選びの条件となるものは、

・一番お客さんが多い場所、または、多そうな場所
・家族がいる場所
・得な場所(仕入れが安い、人件費・家賃・物価などの経費が安い、税金が有利、など)
・勢いがある場所(経済が発展している、今は発展していないが今後期待できる、など)
・好きな場所(街並が好き、食事・酒がうまい、自然に恵まれている、など)

これらの総合得点がもっとも高いところが本拠地候補になる。

ただし、単純な合計得点の問題だけではなく、選択基準の優劣があるはずだ。
たとえば、最近メキシコに本拠地を移した知人のコンサルタントの場合など、”逆張り”の発想だ。
やがてメキシコが日本から大注目される。その時にメキシコビジネスをガイドできるコンサル企業になっていたいというのが彼の狙いだ。

質問者のAさんが香港を選択したのはなぜなのかをもう一度思いだしていただきたい。
「石の上にも三年」というが、二年目くらいで迷ったりせずに、最低三年くらいは自分の選択を信じてがんばってもらいたい。

ただし、その場所を選んだ条件が実は錯覚と誤解によるものだと分かったときは、もう一度、それでも香港を選ぶかどうかは問い直してみる必要があるだろう。

間違ってもブームや雰囲気に乗って安易に外国へ行くのは止めた方がよい。旅行で訪問してそこが気に入るのと、実際にそこを本拠地にしてビジネスをするのとでは全然様子がちがってくるものだ。

とくに、中国が発展しているからと中国に行けば自分も成功できるように錯覚して日本を脱出する人がいるが、そうした人の多くは中国で苦労している。
一部の人はそこで悪戦苦闘しながらも成功するが、大半は失望して帰国する。中国で成功した人は、実は日本でもどこでも成功する人なのだ。

Aさんのことではないが、本拠地を外国にしたり、大都会にしたりする人の中に「三四郎状態」になる人がいる。

三四郎状態とは、夏目漱石の小説『三四郎』の主役のようになることから私が命名した状態のこと。

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熊本の高校を卒業して東京の大学に入るために上京してきた三四郎青年。
明治後半の日露戦争に勝利し、ものすごい勢いで町作りがすすめられる東京の喧噪をみて、三四郎はまったくもって驚いた。

大都会のすさまじさに今まで勉強してきた学問でもってしても、この驚きは予防できなかったと感じる三四郎。この激烈な活動が現実の世界だとするならば、自分の今日までの生活は現実世界に少しも関係がなく、田舎で昼寝をしてきたも同然であると気づく。

かといって、今すぐ昼寝をやめて現実世界に入れるかというと、それも困難である。なぜなら、自分は活動の中心に立ってはいるが、ただ自分の左右前後に起こる活動を見ていなければならない学生という立場であり、見物する場所が東京に置き換えられたに過ぎない。世界は変わっている。自分はその変化をながめているが、変化のどことも接触していない。むしろ変化は自分を置き去りにして行ってしまうという甚だしい不安がそこにある。
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周囲は活発に変化しているが、自分と我社はその真ん中にいながらも変化に参加していない傍観者である、というような状態にならずにいたいものだ。