球春の訪れまであと少し。三日後には高校野球が始まり、その翌週にはプロ野球も開幕する。一気に春がやってくるだろう。野球も昔にくらべてずいぶん科学的になったと思う。なにしろピッチャーの投げる玉がスピードガンで球速○○キロなどと表示される。バッターのスイングスピードだって計れる機械がある。ホームランかどうかの微妙なときはビデオで判定されるし、試合中にベンチからストップウォッチを使って相手投手のフォームの早さを測定する。そうしたデータに対する興味が野球の面白さを加速させているわけだ。いずれはセーフかアウトか、ストライクかボールかも機械が判断するようになると、審判は一人で充分という時代がくるかもしれない。
監督やコーチの仕事も変わる。ピッチャーに「もっと腕を振れ」と言っていたコーチは「腕を振るスピードを常時120キロ以上にしなさい。そのためには上腕三頭筋(二の腕)を鍛え、こういう腕の振り方を反復練習しなさい」と言うようになるだろう。
「あいつはスイングが鈍いから二軍行きだ」と言っていたコーチは、「スイングスピードが160キロ未満の選手はスタメンでは使わない」と言ってスピード測定マシンを選手に渡せば良いだけになる。
科学やデータが重んじられるのは野球だけではない。他の競技でも同様に(いや、それ以上に)データ化が進んでいる。アメリカンフットボールでは、かつて人気選手が練習中に心臓発作で突然死したことがあった。その教訓から、あるプロチームでは練習中にGPS機能などが付いた腕時計を選手に装着させるようにした。
それによって選手の運動量や健康状態、残存エネルギーなどをコーチが把握できるようにした。その機械(TIMEX社製)がもたらすデータは選手器用にあたっての判断材料にもなる。
「最近、彼は疲労がたまってパフォーマンスが落ちている」
「休養明けの彼はさすがに運動量が豊富だな」
「彼は疲れやすいタイプだが、回復力も抜群に早いな」
などと言ったことが分かるわけだ。
そのフットボールチームのデータ重視はそれだけに終わらない。選手達は自宅で何を食べ、何をどれだけ飲み、何時に寝て何時に起きたかをトレーナーに報告しなければならない。そうした記録もあわせてコンピュータで管理されるのだ。
案の定、選手達は最初ブーイングした。
「アメフトをやっているわけで、人間ドックに来たのじゃない。今までオフのときにはアップルパイを腹いっぱい食っていたのに…」とあるスター選手。しかし、こう続ける。「節制することで、自分のコンディションが上がっていくのが目にみえて分かるのならチャレンジしてみたいね」
試合や練習だけが選手を鍛える場ではない。普段の生活での飲食、休養、睡眠などをきちんとコントールする必要があるというわけだ。プロフェッショナルとはそういうものだろう。
日本でもかつて、広岡監督(元・西武ライオンズ)の組織野球が有名で一時的に成功した。飲酒や喫煙の制限、食事メニューの制限、厳しい門限、練習中の私語禁止、集団行動を重んじる組織野球は別名・「管理野球」と言われた。「肉や牛乳なんて腐った食い物」と発言し、親会社の西武グループから苦情をもらったが、広岡は発言を撤回しなかった。そして広岡のマネジメントは成果をあげ西武ライオンズを優勝に導いている。しかし、今ほどデータに基づいたものではなかったため、あまり普及せずに終わった。
ちなみにサッカーでは香川選手をスカウトしたマンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督(当時)がもっとも早く GPS 時計を使った練習を取り入れている。
ビジネスではどうか。そしてあなたの会社ではどうだろう。
部下の疲労具合や健康状態、忙しさの状況をデータで測定する方法を考案してみてはいかがだろう。すでにそうしたものに取り組んでおられる方は是非情報をお寄せいただきたい。