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ある社長の迷い

A社長(55才)は、リーダーシップのとり方について迷っていた。
彼曰く、「金正日のような横柄な態度が自分にはとれない。その点、若くから社長をやっている人がうらやましい。なぜなら、横柄な態度が必要な時には、いつだってそれができるから。その点自分は、50才過ぎまでサラリーマンをやってきたから、礼儀正しくあろうとし過ぎて嫌になる」

私は、彼の迷いはそもそも間違っていると申し上げた。的外れな迷いだ。

態度がデカイことや粗野であることと、社長らしいこととはまったく別問題だからだ。
20代から社長をやっているから態度がデカくなるなんてことはあり得ない。その証拠に、若い社長が礼儀正しく立派な人を何人も知っている。

私はむしろ、何才になってもサラリーマンの臭いがする謙虚な社長が好きだ。きちんとしている可能性が高いからだ。

サラリーマンを長く続けることの弊害があるとしたら、自分で意思決定しない(できない)ことや、最終的には上司がいるという事実ゆえの依存体質が芽生えやすい点にある。

だが、それは「そうなりやすい」という環境の問題であって、本人の自覚によってある程度、何とでもなる問題だ。

だからサラリーマン経験が長かったというA社長のキャリアは、社長業のハンデにならない。

そのあたり、『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』で著者のジム・コリンズはプロ経営者にいたる道筋を次のようにわかりやすく紹介している。

第一水準 有能な個人
才能、知識、スキル、勤勉さによって生産的な仕事をする

第二水準 組織に寄与する個人
組織目標の達成のために自分の能力を発揮し、組織のなかで他の人たちとうまく協力する。

第三水準 有能な管理者
人と資源を組織化し、決められた目標を効率的に効果的に追求する

第四水準 有能な経営者
明確で説得力のあるビジョンへの支持と、ビジョンの実現に向けた努力を生み出し、これまでより高い水準の業績を達成するよう組織に刺激をあたえる。

第五水準 第五水準の経営者
個人としての謙虚さと職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業を作り上げる。

冒頭のA社長は、第一水準からスタートし、第二、第三というように必要なステップを積み上げて今日がある。
若くして社長になった人の中には、アイデアがヒットしてたまたま大きな会社を作れたが、一人のビジネスピープルとして見た場合、第一水準から第五までの水準がいずれも満たされていない、ということだってあり得る。

時々自分をふり返って、こうした水準を満たしているかどうか自己チェックしてみよう。

それこそA社長が本来悩むべきテーマだ。

社員を評価する評価表があるように、社長が自らを評価する社長評価表を作って評価しよう。その結果で、自らを処遇するのだ。
もし成長がなかったら、業績が良くても昇給すべきではない。

そして、第五水準に到達していると思える経営者を周囲に探そう。
弟子入りするか、メンターとして仰ぎ続けよう。時空を超えて歴史上の人物や外国人にそうした相手を求めてもよいだろう。

私たちは社長になった今も成長し続けなければ、会社が成長しない。

態度がデカイかどうか、なんて些細なことに気を奪われているヒマはないはずだ。