「優秀な人材像を語ってください」と百人の社長にインタビューすれば、おそらく70人はこう答えるだろう。
・・頭がよくて、社交性があって、話し上手な人・・
ところが、現実はどうだろう。
実際に中小企業で社長を補佐する経営幹部を見ていると、ほとんどがその真逆である場合が多い。
例えるなら、頭の回転が遅くて、社交性に欠けて、口べたな幹部。
でもそれは悪いことだとは思わない。むしろ、そうした人が財産だ。
過日、「来年に講演をお願いしたい」と、ある人から電話がかかってきた。この講演会にかける彼の思いのたけが語られた。
立て板に水の如く、という表現があるがそんな生やさしいものではなく、機関銃を撃ちまくるかのようにあちこちに話題が飛び火し、しかも猛スピードで話しまくったあげく、最後になって、「そういうことですので武沢先生、あとはメールしますのでよろしく」と電話を切った。
もし彼が担当営業マンだったら、きっと担当替えを要求するか、あるいは、その会社とのつきあいをやめるかもしれない。
よくしゃべる営業マンには気をつけよう。口数が多い社員にも気をつけよう。
ある会社の営業マンA氏は、受注がとれずに困っていた。会議のたびにA氏は売れない理由を語る。
・業界全体が厳しく、この地域に物件情報そのものがありません
・ライバル社が、相当深く食い込んでいるようでうちが入り込む余地がありません
・うちの価格は高すぎるようで、今のままでは相見積もりに勝てません
売れない理由をこれだけ説得力充分に語れるのも何か変だと思った私は、社長に進言した。
「社長、A君の行動の裏をとってください」
翌日から、社長はA君の日報をさかのぼって調べ、先月訪問した相手先の担当者や社長に電話をかけた。
「先日は当社の営業のAがお世話になり、ありがとうございました。今回は他社様にお決めになったとAから報告を受けましたが、もしお差し支えなければ、その決め手は何だったのでしょうか」
こんな電話を何十本もかけた。一部の客先には、アポをとって社長自らが菓子折り持参で出向いた。
そして、二社に一社は率直に教えてくれた。
そして、その回答はA君の報告内容と相当ずれていた。つまりA君自身、なぜ売れないかを憶測で語っていたのだ。もちろん、憶測とはいっても一番現場に近いところにいるわけだから、でたらめではない。
一部は、たしかにA君の言うとおりだったが、大部分は違っていた。
相手はこう言った。
・A君は、他社製品の悪口を言ってこきおろしてばかりで聞き苦しい
・自分がしゃべるばっかりで、こちらの考えに興味がないようだ
・約束の時間に遅れてきて、詫びもしない
・彼はいつもたばこ臭い
・・・
A君自らも、売れない理由を作っていたのだ。
営業会議でいくら新しい販促アイデアを出したところで効果が出るはずがないのだ。
昭和のカリスマ経営コンサルタント・一倉定氏はこう語る。
・・・
セールスマンの適格者は、頭の回転が遅く、社交性に欠け、口が重いことである。
「陰ひなたなく、根気強く」こそ、セールスマンに要求される最も大切なものである。
・・・
一倉定の経営心得
http://www.jmca.net/booky/keieikokoroe/kokoroe.html
何となく描いている優秀な人材像、その焦点を合わせ直してみよう。
—————————————————————-
【訂正】
昨日号にて、中小企業家同友会のインターンシッププログラムで、学生と企業のマッチングを行うのは同友会事務局であると書きましたが、正しくは、学校側もしくは担当の先生が生徒に紹介して決める、というのが実情でした。ここに訂正します。
—————————————————————-